白夜の降魔

 

ラブひな IF       〈白夜の降魔〉

 

 

 

第十二灯 「浦島 景太郎」

 

 

 

 

 

景太郎が墓参りに行っているときと同じく…

ひなた荘では、住民達全員がリビングでくつろい―――――もとい、だらけていた。

この時期、受験で忙しいはずのなるまでもが…だ。

 

 

「は~~…暇やなぁ。なんかこう、おもろい事って無いもんかなぁ……」

 

 

ゴロン…とソファーの上で寝返りをうちながら呟くキツネ。

誰かに言っている…と云うわけではなく、現状に対する不満を口にしたものだ。

 

 

「五月蠅いわねぇ。だったら今夜のパーティの準備でもしなさいよ」

 

 

一応、受験生である体裁を取り繕っているのか、別のソファーでだらけていても問題集をずっと眺めているなる。

 

 

「さすがに景太郎管理人の許可無しでやるわけにはあかんやろ?」

「準備するだけなら構いやしないわよ」

 

 

キツネの反論を、なるはさらりと返す。

 

 

「そないな事を言うてもなぁ…うちができるのは酒の準備ぐらいやし。

残念ながら、一番の戦力であるしのぶは……使いもんにならんようやし……」

 

 

そう言いつつ、リビングの片隅にしゃがみ込んでいるしのぶに視線を向ける。

景太郎が朝から女の所に行っていると勘違いしており、しのぶが落ち込んでいるのだ。

その背負った暗い雰囲気ダーク・オーラが、徐々にだが周囲を浸食しているようにすら見える。

 

キツネとなる、そして素子はしのぶを元気づけようとしたのだが、その暗い雰囲気ダーク・オーラに圧倒されて敗北した。

唯一その暗い雰囲気ダーク・オーラを突破できたのは……

 

 

「あはははは、しのぶ~、どないしたんや?」

 

 

いつも元気百二十パーセントのカオラ・スゥのみだ。

しかし、その太陽のような元気も、暗い雰囲気ダーク・オーラに遮られ、しのぶはまったく反応を示さない。

 

 

「くらいんはあかんでしのぶ~。そんなときにはこれや!」

 

しのぶの目の前に懐から取り出した茶色い小瓶をドンッと置くスゥ。

 

「カオラ印の栄養ドリンク〈元気モルモルくん〉で気分そ~かいや。一本百五十円、お買い得やで」

「おいスゥ。それは市販の栄養ドリンクだろうが」

 

 

それで元気がでるなら…と、緑茶をすすりながら様子を伺っていた素子が、

小瓶に貼られているラベルを見てスゥに言う。

ちなみに、ラベルには飲めば二十四時間働けそうな名前が書いてある。

 

 

「おお! はじめて素子がうちにつっこんでくれた! なんやうれしいな~」

「あのな……」

 

 

意外なところからのつっこみを大喜びするスゥ。そして呆れる素子。

そんな即席漫才にも、しのぶは反応を示さない。

 

 

(こらあかんわ。本気マジで重症や)

 

しのぶの状態に匙を投げるキツネ。

そんなとき…玄関から一人の女性が入り、キツネ達を見回す。

 

「なんだなんだ…揃いも揃って、若い者がだらしのない」

 

 

キツネ達若い者を若くない同じく若い女性であるはるかが呆れた口調で叱責する。

そんなはるかのいきなりの訪問に、話題を変えようとなるが問いかける。

 

 

「あ、はるかさん。景太郎の奴、帰ってきました?」

「いや。そもそも、景太郎あいつがわざわざ私の所に寄るはず無いだろうが」

 

 

多少離れているとはいえ所詮は浦島。景太郎が好き好んで喫茶・日向はるかの元を訪れることはない。

その事を告げると、皆は揃ってはぁ…と溜め息を吐き、さらにグッタリとだれる。

 

 

「おいおい…もしかして景太郎が居ないからこんなにだらけているのか?」

 

 

苦笑混じりのはるかの言葉に、キツネもははは…と笑う。

 

 

「まぁ、管理人をほっといて勝手にどんちゃん騒ぐってのもあかんやろ? それに……」

 

 

チラッと部屋の片隅しのぶに目をやるキツネ。

その時、キツネの脳裏に天啓に近い良い考えがひらめいた。

 

 

「そうや! はるかさん、子供の頃の景太郎ってどないやったんや?」

 

 

キツネの唐突な質問にはるかは一瞬面食らうが、

すぐに真顔…キツネ達にも滅多に見せないほど真剣な顔になる。

 

 

「そんなことを聞いてどうするつもりだ」

「ど、どうするって…別に、どないするつもりもあらへんけど……」

 

 

真剣な顔と厳しい言葉に若干怖じ気づくキツネ。

しかし、そこはしのぶの元気づけと持ち前の好奇心(比率三対七)で押し止まる。

 

 

「景太郎はここの管理人なんやで。つまりは、一つ屋根の下で住む家族みたいなもんや。

家族のことは知っておきたいやろ? なぁ、なるもそう思うやろ?」

 

「ま、まぁ…どちらかというと…聞いてみたいけど」

 

 

尻すぼみに答えるなる。こちらははるかの迫力に負けかけているのだ。

 

 

「キツネ、それになる。家族のことを知りたいという気持ちは解らんでもない。

だが、いくら家族とはいえ、知られたくないこともあるだろうが。それが解らんお前達でもあるまい」

 

「「…………」」

 

 

はるかの言葉に黙るキツネとなる。

それぞれ、触れられたくない家族事情、過去があるからだ。

 

 

「あの…私は知りたいです」

 

 

だが、意外なところから…沈んでいたはずのしのぶから賛同の声があがる。

それはある意味、キツネの狙い通りなのだが…この状況下では本当に意外だ。

 

そもそも、よく言えば『他人を尊重する』、悪く言えば『内気で自分を表に出せない』しのぶが、

他人の…気になる人とはいえ…家族事情に触れる話に賛同したことにはるかは正直驚く。

 

 

「しのぶ…私の話を―――――」

「それでも知りたいです。たとえ、私の…その…代わりに家庭事情を話すことになっても……」

「うちもや~」

 

「済みませんが私もそうです。第一、あいつは元々は浦島の人間。

私の所属する神鳴流とは全くの無関係とは言えません。正直、興味があります」

 

 

残るスゥと素子も賛同する。これで、ひなた荘の全員が賛同したということだ。

 

 

「まったく………お前等には負けたよ。解った、私の知ることを話そう」

 

根負けしたはるかに、皆は一様に喜ぶ。

 

「ただし、条件付きだ」

「条件…ですか?」

 

 

はるかの条件という言葉に、なるが訝しげに問い返す。

 

 

「そうだ。条件とは景太郎には黙っておくこと。

あいつにとって愉快なことではないし、私が話したなんでばれたら、間違いなく殺されるからな」

 

 

はるかの強い口調に引き気味でコクコクと頷く一同。

それを見たはるかは…昔を思い返しながら語り始めた。

 

それと同時に、皆は沈黙し、はるかの言葉を静かに聞く。

景太郎の過去が辛いことを朧気ながらも知っており、笑いながら聞く話ではないと理解しているからだ。

 

 

「昔の景太郎は…そうだな、一言で言えば、『よく笑う子供』だった。

水術師の大家〈浦島〉の宗家の嫡子でありながら、水術師の才を欠片も持ち合わせてなかったあいつは、

周囲全ての者から”無能”の烙印を押され、蔑まれていた」

 

 

その時のことを思い出すはるか。

もし自分なら…そう考えると辛いだろうと思うが、本人の辛さはその何十倍だという事を、今なら理解できる。

 

 

「水術師の集団の中、唯一”水の精霊”の加護を受けない人間。それも、本来は手も届かないはずの宗家の者。

そんな景太郎を、分家の連中は…特に子供達が、自分の水術の実験台にして虐めて、いや、虐待していた。

水術師としての力のみに至上の価値を見出みいだ浦島あそこでは、景太郎は恰好の標的まとだったんだ。

今思い返すと、あの時は子供達の行為が目立っていたが…裏では相当な数の大人もおこなっていたはずだ。

本来、手の出しようのない絶対的な存在である宗家の者に対しての憂さ晴らしでな……」

 

 

分家でも傲岸不遜な連中は、ずっと逆らえない存在である宗家へ鬱憤が溜まっている者も多い。

大体はそういったものはより下位の者で憂さ晴らしをするのだが、その矛先が景太郎に向かったのだ。

 

子供どころか、それを諫めるべき大人までもおこなっていたという事実に、なる達一同は嫌悪感を露わにしている。

それが正常な反応なのだ。そして、それを素直に出せるのが羨ましい…そう思い、はるかは少しだけ微笑んだ。

 

 

「その景太郎だが…水術の才こそ無かったが、それ以外の様々なことに関しては素晴らしく優秀だった。

武術においても学問においても、同年代の子供より二歩も三歩も抜きんでていた

その中でも特に氣功術…氣を使った武術、術式に関しては目を見張るものがあった。

それも、かの神鳴流・二十四代目総代〈青山 元舟〉を推して”天才”と言わしめたほどだ」

 

「そ、総代がですか!?」

 

 

はるかの口から出てきた意外すぎる名前に、素子は驚きを隠せない。

いや、その顔は驚愕しているという方が正しい。

 

 

「もとこ、どないしたんや?」

「あ、いや…おほん」

 

 

スゥ達の訝しがる視線に、我に帰った素子は咳を一回して気持ちを切り替え、平静な顔になる。

それを見計らい、キツネが問いかける。

 

 

「素子。何をそんなに驚いたんや?」

 

「はい…神鳴流総代・青山 元舟。名字から解るとおり、私の父です。

娘の私が言うのも何ですけど、父はとても厳格な人物です。

神鳴流の修行に関しては特にそれが顕著で、基本的に人を誉めることをしません。

その力を、努力は認めても、誉めるという行為は極力しませんでした。少なくとも、私の知る限りは……」

 

 

と言っても、素子は元舟に修行をつけてもらったことはほとんどない。

いつも姉である鶴子が面倒をみてくれていた。

元舟は総代としての責務が忙しく、そこまで手が回らなかったのだ。

 

 

「その父に『天才』と言わせるほどの資質を、神凪は持っていたと言うことなのですか?」

「素子、神鳴流の技に〈氣纏きてん〉と云うものがあったな」

「え? ええ…それがなにか?」

 

いきなりのはるかの言葉にどもりながらも答える素子。

そんな二人にしか通じない単語に、皆を代表してなるが声をかける。

 

 

「ねぇ素子ちゃん。その氣纏きてんって何?」

 

「あ、はい。氣纏きてんと云うのは”氣”を…体内を駆け巡るエネルギーを物などに纏わせる技術です。

字もそのまま…『”氣”を”纏”う』と書いて氣纏きてんです。

私で云えば、この刀…『止水』に氣を纏わせることです。まぁ、扱う武器は個人によって違いますが…」

 

 

手元にあった『止水』を抜き、自分の氣を纏わせる。

霊視力のある者なら、その刀身が淡く輝いている様を視ることができただろう。

 

ちなみに、止水は土属性のため纏わせた氣も〈土氣〉になる…のだが、

今回はあくまで表面を”氣”で纏う、つまりコーティングしているだけなので、属性を帯びない。

 

 

「これは神鳴流に限らず、氣を扱う類の流派や退魔士ならばほとんどができると聞いています。

これを身に付けるには通常五年…早い者で三年の期間が必要です。

ついでに言えば、その期間内に必要な武術、知識もつめなければなりません。

その修行は過酷で、この最初の段階で約半数の者が脱落してしまいます」

 

「素子。お前はそれをどれくらいの期間で修得した?」

「私は…大体二年です」

「ほぅ、たいしたもんじゃないか」

 

「一般ではそうかもしれませんけど…『青山』では普通です。

あの姉上は、約十ヶ月で全てを終えるという史上最年、及び最短記録の樹立と云う偉業を果たしています。

しかし、それですら父上はさして誉めなかったと聞き及んでおりますけど……」

 

「ああ。『さすがだ、よくやった』と言葉少なにしか誉めていなかったよ。

しかし、鶴子が”天才”であることには変わりはない。あれが天才じゃなかったら、誰もが凡人だ」

 

「ええ。それは誰よりも知っています」

「そこまで言えば解るだろう…景太郎はそれすらも超える”鬼才”だったと云うわけだ」

 

 

鬼才とは、『尋常ならざる才能』と云う意味を持つ言葉。

はるかは、かの『神鳴流の剣姫』青山 鶴子を”天才”と称し認めてもなお、景太郎を”鬼才”と称しているのだ

 

 

「鬼才…ですか」

 

「そうだ。通常で三年から五年。青山家と云った名家の者が約二年。

”天才”である鶴子が十ヶ月。それを景太郎ははるかに上回る僅か『三ヶ月』で終えたんだ」

 

「そ、そんな馬鹿な! そんな短い期間で〈氣纏きてん〉を修得するなんて不可能だ!!」

 

 

はるかへの敬語も忘れて叫ぶ素子。

かつては自分も修めた技術ゆえ、それを身に付けるまでの過酷さ、辛さはよく知っている。

よく知っているからこそ、姉をも超える才覚を示した景太郎に素子は恐怖を感じた。

 

 

「否定したい気持ちは解らんでもない。だが、事実だ」

 

 

素子の否定の言葉を真っ向から否定するはるか。

怒鳴り返すわけでもなく、ただ淡々と答える様は、その言葉により真実味をもたせた。

 

 

「何かいまいち解んないんだけど…あいつってそんなに凄いんだ」

「そのようやな。かく言ううちもいまいち解らんけど」

 

 

なんとなく納得したという感じのなるとキツネ。

そんな二人の言葉に、はるかは大した反応もみせずに言葉を続ける。

 

 

「どんな所でもそうだが、優秀な人間と云うのは他の者から羨望や嫉妬を受ける。景太郎の場合は後者だ。

浦島の分家の者は、水術すら使えない出来損ないのくせに、他の分野において自分達を遙かに凌駕している。

それが気にくわなかったんだろう。景太郎に対する虐待は悪化する一方だったよ。

神鳴流の者も…特に景太郎と共に修行を受けた者は、その才能を恐れ、畏怖の目を向けていたな」

 

 

そう言ってチラッと素子を見るはるか。

つい今しがた、景太郎に恐れを抱いたばかりの素子はその視線をまともに受けることができなかった。

 

 

「誰も…誰も先輩を助けようとはしなかったんですか?」

 

 

今の今まで黙って話を聞いていたしのぶが、感極まったように質問する。

景太郎の子供の頃の話に、しのぶはショックを隠せない。

小学校の頃、同級生にいじめを受け辛い思いをしていたしのぶには、

景太郎の気持ちがほんの少しだけとはいえ理解できるのだ。

 

 

「無論いたさ。前・宗主でありここの前・管理人であるひなた婆さんを筆頭に、

景太郎の母で宗主の奥様の〈茜〉様、次期宗主で義妹の可奈子。

叔母の乙姫 なつみ様に娘のむつみ等といった方達が景太郎を庇い、味方をしていた。

神鳴流の上位に居る者も…総代達は景太郎の境遇にいい顔をしていなかった。

なんとかしようと色々と動いたらしいが…その立場上、どうにもならなかった」

(正確には、もう一人いたんだが…それは語れないな)

 

 

張るかはそう心の中で呟きながらなるを見る。

それを語る資格も権利も、自分にはない。

 

 

「先輩のお父さんは…それにはるかさんはどうだったんですか?」

 

 

先程、はるかの挙げた名前に景太郎の父とはるかの名が無いことに疑問をはさむしのぶ。

その言葉に、なるは何当たり前のことを…と云う感じで言葉を返す。

 

 

「しのぶちゃん、そんなこと聞くまでも無いじゃない。はるかさんも―――――」

 

「悪いが…なる。お前の考えていることとは正反対だ。

景太郎の父、浦島宗主である影治様は景太郎を疎んでいた。

公衆の面前だろうがどこだろうが、平然と侮蔑の言葉を吐くほどにな。

宗主からしてそうだからな。分家の者が景太郎への虐待は悪化の一途だった。

そして私は…手出しこそしなかったが、景太郎のことを同じように見下したいた……」

 

微かに顔を顰めながら、静かにそう告げるはるか。

その言葉を聞いたキツネは血相を変えてはるかに詰め寄る!

 

 

「なんでや! はるかさんみたいな人が何でそないな事をするんや!!

景太郎は優秀やったんやろ? たかが才能一つ無い程度で何でそないな事を……」

 

「その『たかが才能の一つ』が浦島では絶対のものだったんだ。

それに、景太郎が優秀だったからこそ、私はあいつの事が気に入らなかったんだ。

分家の連中にどんなことをされても、ヘラヘラ笑っているあいつが。

軟弱者で、吠えることもできない負け犬に見えてな…正直、見るのも嫌だった」

 

「そんなんで納得できるかい! 景太郎が虐待されているときに何もせん方が何倍も悪いやないか!!」

 

 

はるかの言葉にとうとうキツネは胸ぐらを掴む。

はるかを密かに尊敬していたキツネにとって、今の言葉は絶対に許せない。

いや、尊敬していなかったとしても、許せることではなかった。それは、この場にいる者達の総意でもある。

 

 

「あの当時に私にはわからなかったんだ。なぜ、景太郎が何をされても笑っていたかを……

あいつは子供でありながら、浦島家を案じていたんだ。

自分のことで婆さん達が動き、分家達との関係を拗らせないように…ってな。

だから、あいつはいつも笑っていたんだ。『自分は大丈夫だから、気にすることはない』とな。

婆さん達に心配をかけまいと、どんなことがあっても笑みを絶やさず…

まったく、餓鬼だったんだよ―――――所詮は何も知らない、視野の狭い小娘だったんだ。私はな…」

 

 

過去の罪状を吐露する罪人の如き様子のはるかに、キツネは手の力を知らずに弛め、放す。

そして元の位置に座り、頭を下げた。

 

 

「すんません、はるかさん。よう事情も聞かんと……」

「気にするな。むしろ、お前達の反応が嬉しいよ」

 

 

はるかは微かに微笑を見せながら、全員に向かってそう言う。

 

人というのは同じ価値観では動いていない。同じ話を聞いても怒る人、平静としている者など様々だ。

でも、今の話を聞いてこの場にいる者達全員は憤ってくれている。

それがはるかには何よりも嬉しかった。

 

 

「それで…結局、景太郎が家を追い出されたのは、その水術の才能がないためなんですか?」

「いや、それは違う。景太郎が追放されたのはそれとは別件だ」

 

 

なるの質問を手短に答えるはるか。その事を深く説明するわけには行かないからだ。

しかし、それだけでなるが納得するはずがなかった。

 

 

「それは何なんですか?」

「すまないが、その件に関してはノーコメントとしか言えん」

「良いじゃないですか、ここまで話してくれたんだから」

 

「駄目だ。言い方は陳腐だが『一般人が踏み込んでも良い領域を超えている』んだ。

脅しでも何でもなく、秘密を知られたからには死んでもらう…なんて事にもなりかねん」

 

「しかし……」

 

 

はるかの多少脚色が入った脅しにも引き下がろうとしないなる。

自覚の所で感じているのかもしれない。自分も、ソレと深く関わっている者なのだと……

 

 

「なる先輩、はるかさんは純粋に我々の身を案じていってくれているのです。

それに、はるかさんにも立場があるのです。それを理解して下さい」

 

 

素子の諭すような言葉に、不承不承ながらも頷くなる。

少なからず、景太郎やはるかが身を置く世界が危険だと云うことは理解しているのだ。

 

 

「すまないな…まぁ、それはともかく、色々な事情があって追放された景太郎が路頭に迷っていたところを、

神凪家の宗主、〈神凪 重悟〉殿が拾ったらしい」

(正確には景太郎は路頭に迷っていたのではなく、瀕死の重傷のまま捨てられた所を救助したらしいんだがな)

 

 

「あの、らしいって…なんでそんなに曖昧なんですか?」

 

浦島うち神凪あそこは仲が悪くてね。おかげで詳細な情報が伝わらないんだ。

当時、唯一手に入った情報は『景太郎が神凪宗家に引き取られ、炎術師となった』ぐらいだったんだ」

 

 

しのぶの質問に答えるはるか。その脳裏には、当時の様子を思い出していた。

 

あの時…神鳴流がもたらした『景太郎の”神凪”入り』を聞いた時、影治と分家の連中は揃って爆笑した。

そしてその後、嘲笑しながら景太郎と神凪家を馬鹿にしていた。

当時、景太郎をよく見ていなかったはるかでも、その反応を見てさすがに哀れと思ったほどに…だ。

 

そして母である茜は、それを聞いた途端に景太郎が心配のあまりに卒倒し、

引きこもっていた可奈子は景太郎に会いに行くと云って神凪に行こうとした。

 

(あの時は大変だったな…可奈子の奴、止めようとした奴等全員を病院送りにしたんだからな。

あの時、婆さんが偶々屋敷にいなかったらと思うとぞっとするな。

そういやあの頃からだな。私が可奈子に苦手意識をもったのは……)

 

病院送りにされかかった者とすれば、それも致し方ないのかもしれない。

 

 

「そして、景太郎は神凪家の歴史の中でも有数の実力者になって今に至るというわけだ」

「有数の…実力者ですか」

 

 

有数の実力者と言うくだりを繰り返す素子。

一度景太郎とり合った関係だ。色々と考えるべき所もあったのだろう。

 

 

「さて、そろそろ日も暮れてきた。店を閉めに行くとするか」

「じゃ~な~はるか。また話きかせてな~」

 

 

話をせがむスゥに片手を上げて返事をしたはるかは、そのまま背を向けてその場を去った。

残されたひなた荘のメンバーは暫く沈黙した後、キツネが思い立ったように立ち上がった。

 

 

「それじゃぁそろそろクリスマスの準備を始めるで! 景太郎がいつ帰ってきてもええようにな」

 

 

軽くウィンクをしながら皆に呼びかけるキツネに、

しのぶ達全員はそれぞれ返事をしながら頷いて立ち上がると、各々の役割に応じてパーティーの準備を始める。

 

 

キツネの言った通り、何処に行ったかわからない管理人がいつ帰ってきても良いように―――――と。

 

 

 

 

 


 

 

 

「―――――はっ!」

 

 

畳敷きの部屋…そこに敷かれた布団の上で寝ていた女性が目を開けると、

途端に弾かれたように上半身を跳ね起こす。

 

 

「ん? 気がついたようだね」

 

 

起き上がった女性の隣にいた男性が、ホッとしたような声をかける。

この男性は女性が寝ている間、ずっと看護を続けていたのだ。

 

 

「気分はどうだい? 鶴子さん」

「彰人はん……」

 

そう。寝ていた…否、寝かされていた女性とは、つい数刻前に景太郎に敗北した鶴子で、

看護していた男性とは、その鶴子の伴侶である彰人だった。

 

 

「うちは…それに、此処はどこなんどすか?」

「鶴子さんは景太郎くんに敗北し負けたんだ。そして、此処は近くにあった”隠れ家セーフ・ハウス”だよ」

「そうどすか…敗北し負けたんどすか」

「うん。お腹に大きい一撃をうけてね。大丈夫かい?」

「ええ…身体が勝手に後ろに下がっていたみたいで。さほど深いダメージはありまへん」

「そっか。それは良かったよ」

 

 

鶴子の言葉にニッコリと微笑みを返す彰人。

そんな彰人に鶴子も笑顔…ただし、疲れたようなもの…を見せる。

 

 

「あの後、一体どうなりましたん?」

「あの後かい? あの後、僕が鶴子さんを担いできたんだよ」

「よく景太郎はんが見逃してくれましたな。うちは殺される覚悟はしてましたのに…」

「本人もその気だったって言ってたよ。でも、『めでたい日』だからってね」

 

「そうどすか…うちはあのに二度も命を救われたことになりますなぁ」

 

「そう言うことになるね。ほんと、命拾いしたよ。

でも、神凪宗家クラスの炎術師に、然したる準備も無しに闘いを挑んだんだ。

僕なんか二人が闘いを始めたときには肝を冷やしたよ? 命があっただけ良かったと思わなきゃ」

 

 

あの闘いを近くで見ていたアキトは、鶴子に対してにべもなくそう言う。

 

実は、あの公園に人払いの結界を張ったのは彰人なのだ。

鶴子に、景太郎と二人で静かに話をしたいと言われて、あの公園を空けさせられたのだ。

しかし、やはり少なからず因縁のある者同士。少々の小競り合いぐらいは覚悟していたのだが…

まさか死闘にまで発展するとは、完璧に彰人の予想外だった。

 

彰人にしてみれば、鶴子が闘っている間はずっと心配の連続だったのだ。対応が冷たくもなるだろう。

 

 

「酷い言い草どすなぁ…」

 

「子供じゃないんだからむくれない。それに、下手な同情は鶴子さんの嫌うものだろう?

その代わりに、気絶した君を此処まで運んで介抱したんだから文句は言わない」

 

「どうせなら、もっと早く…うちがやられる前に助けに来て欲しゅうおましたなぁ」

「何を言っているのやら。助けに出たら出たで、邪魔だって怒るくせに…」

 

「ほほほほほ、さすがはうちの旦那様。よう解ってらっしゃるようで……」

 

 

非難の言葉を同じく非難の言葉で返すアキトに、鶴子は口元に手を置いて上品に笑って誤魔化す。

そんな鶴子に彰人もまた苦笑じみた顔をする―――――が、すぐに真面目な顔になった。

 

 

「しかし…正直な話し、鶴子さんが危険な時に助けに行こうと思ったよ。でも、できなかった」

「彰人はん?」

 

「あの時…僕が助けに出ようと一歩踏みだした瞬間、凄まじい殺気が襲いかかってきたんだ。

あれは本当に凄まじかったよ…おかげで動くこともできず、その場で立ち竦むしかなかったんだから」

 

「そこまで…なんどすか?」

 

 

にわかには信じられない…そう雄弁に語っている表情で問う鶴子。

その意志を読みとった彰人は、鶴子に向かってしっかりと頷き返した。

 

 

「ああ。何度も言うようで悪いけど、本当に凄まじく生々しい殺気でね。

あれを言葉で表すのなら…そうだな『それ以上一歩でも動けば”ぶっ殺す”』そう云った感じ四匹分だったよ」

 

「四匹? 四”人”やのうて”匹”なんどすか」

 

「”四匹”だったよ。あれは人とは異なる者放つ異質な『殺気』だった。

あえて言うなら…動物かな? うん、それが一番近かったと思う」

 

「動物どすか…」

 

「あくまで、僕が今まで感じた中で、一番近い気配の質が…なんだけどね。

配置は…君達を前方にして、左右と背後、そして上空。完全に身動きがとれなかったよ」

 

「もしかして、式神どすか?」

 

 

彰人の説明から、鶴子はある一つの可能性を導き出す。

 

浦島は元を辿れば陰陽術師の大家。そう云った技術は水術と融合したりして伝えられている。

それを逆に言えば、浦島家には陰陽術師としての才が脈々と受け継がれているともとれるのだ。

その正統なる嫡子の一人であった景太郎は、陰陽術の扱いにも稀有な才能を示していた。

可能性で言うのであれば、景太郎が式神を使役していたとしてもなんら不思議ではないのだ。

 

しかし…

 

 

「違う…と思う。確かに僕も最初はそう思ったんだけどね。

それにしては異質な感じがしたし、殺気には明確な意志がありすぎた。

おそらくは別物…それこそ、可能性で言うのなら西洋の”使い魔”の方が高いと思うよ」

 

「なるほど…確かにそう云う可能性もありますな。

しかしまぁ、本人のえらい強さに加えて、”仙位”の彰人はんを抑え付けてしまうほどの伏兵が四匹とは。

これはもう、厄介を通り越して脅威でおますなぁ……」

 

 

自分の伴侶…彰人の実力を知る鶴子は、本心からそう呟いた。

 

彰人の戦闘力は、数多くいる神鳴流の退魔士の中でも『中の上』ぐらい。

全体から見ると実力者に分類されるが、上位にいる者から見ると「さほど大したことはない」と云われるだろう。

しかし、それでも彼を足止めならともかく、殺気だけで動きを止めようとするのなら…

神鳴流の中でも両手の指で事足りるぐらいしか居ない。

 

 

「ははは…そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕の得意分野は別だからね」

「それはそうどすけど…」

 

 

彰人の本領…それは、後方支援。直接戦闘よりも後方支援を得意とするタイプなのだ。

しかも、その腕前は神鳴流の中でも追随を許さぬほど。

誰も補助はできない…そう云われていた鶴子を唯一補助サポートできる事から、それは疑う余地もない。

 

その超絶な腕前から、彼の二つ名は―――――〈ことわりに添う者〉―――――

神鳴流の真髄『五行相克・相応』をどんな相手であろうと自由自在に合わせる。そう云った意味を持つ”二つ名”だ。

 

 

まぁ、そう云うえにしから、この二人は見事夫婦になっているわけだ。

 

 

「それで、次は勝てそうかい?」

「……正直言って自信はありまへん。うちが全力やったのに、景太郎はんは本気をだしとりまへんどすからな」

今の君はね。でも、今の状態のまま〈五龍〉の力を”全門”解放したとしても勝ち目はないのかい?」

 

「それなら…いや、やはりわかりまへん。先も言ったように、景太郎はんは本気を…『神炎』を使っとりまへん。

あれだけは、実際にこの目で見るまでは評価のしようがありまへん…迂闊な判断は逆効果どす。

それに、一番厄介なのは景太郎はんの闘い方そのもの。手の内がまったくもって読みにくい。

攻撃方法が予測できでもその裏をかき、奥の手を見せたと思ったらそれすらも次の布石でしかない。

あれならまだ妖魔のほうがよっぽど攻撃を読みやすいどす」

 

「ああ。僕も見ていたからね、よく解るよ。彼、色々と裏技を持っていそうだしね。

鶴子さんの出した秘奥義を殴り返したのなんか、正直我が目を疑ったよ」

 

 

その時の光景を思い出したのか、頬が引きつる彰人。

 

 

「確かに…相克して防ぐならまだしも、放たれた氣砲を受け止め、さらに殴り返すとは。

無論、相応・相克の法則に従った術には間違いはないはず…何かカラクリはあるはずなんどすが……」

 

 

顎に指を沿わせて考え込む鶴子。

あの時、鶴子からは自らが放った氣砲に遮られて景太郎の手が見えなかったのだ。

意図的に見えないようにしていたのは確実だが、五行戦氣術の本家である神鳴流の者として、

同じ系統の使い手である景太郎の返し技カウンターを見切れないことが悔しかった。

 

だが、それも数秒のこと―――――

 

「まぁ、次までにゆっくりと考えればいいどすな」

 

自分は生きている。生きていれば、また景太郎と闘うことができる。

生きていれば、自分の敗因を考え、それを克服する事ができる。

生きていれば…次は勝てる可能性があると云うことだ。死ねばそれまでなのだから。

 

 

「そうだね。疲れている時に無理しても何も良いことはない。今はゆっくりと休まないと…」

「そうどすな…ならうちは寝ます、後はよろしゅう」

 

 

そう言うと鶴子は再び横になり目を閉じる。するとすぐに寝入ってしまった。

もっとも無防備な時を任せる。本当に彰人を信頼している証拠だ。

 

 

「……おやすみ、鶴子さん」

 

 

景太郎から受けた深いダメージを癒すべく深い眠りに落ちた鶴子に、

彰人は慈愛に満ちた微笑を向けながら、優しく頭を撫でた。

 

 

 


 

 

 

「何だこの有り様は……」

 

 

艱難辛苦を乗り越えて、やっとひなた荘に帰ってきた景太郎の第一声はそれだった。

 

まぁ、それも仕方があるまい。

なにせ景太郎の目の前には、煌びやかに装飾された大広間に、

どうやって入れたんだ? と訊きたいほど大きなクリスマスツリーがそびえ立ち、

、その周囲にはサンタクロースのコスプレをしたはるかを含む住民達がアルコールの匂いをまき散らしているのだ。

キツネはともかく、中学生のしのぶまでもが酒を飲んでしまったらしい。

本来の止め役であるはずのはるかは、未だにワインを上品そうに…凄まじいスピードで飲んでいる。

 

「おい年長者ストッパー。あんたまでなに飲んでいるんだ」

「五月蠅い。今回はお前の責任せいだ」

 

はるかの返事に怪訝な顔をする景太郎。思い当たることなど何一つ無いといった表情だ。

はるかからしてみれば、景太郎のせいで落ち込んだしのぶを元気づけるために、馬鹿騒ぎを許したのだ。

酒を飲ませてしまったのは…まぁ、成り行きだろう。

 

その時になって成瀬川も景太郎が帰ったことに気がついたのか、ふらふらとした足取りで詰め寄ってくる。

 

 

「こら~景太郎、こんな時間まで何してたのよ~?」

「こんな時間ってな、まだ十時なんだがな」

「そんなん関係ない。こんな美女達をほっといて誰に会いに行っとったんや? んん?」

 

肩に手を回して酒臭い息を吐きかけるキツネ。まるで親父の絡み方だ。

 

「もしかして女か? 女の所なんか? あぁ? 白状せいや」

「その通りだ。女の所に行っていた」

 

「―――――ッ! そんな、先輩!!」

 

 

聞き耳をたてていたしのぶがショックに目を大きく広げた後、泣きながらその場を走り去る。

 

「神凪! 貴様という奴は!!」

 

 

しのぶが泣いたことに対してか、それとも別の何かなのか、激怒して止水の鯉口を切る素子。

体から氣がオーラのように立ち上り、般若の如き様相で景太郎を射抜かんばかりに睨み付ける。

しかし、酔っぱらっているため体はふらふら、氣もろくに練られていない。

普段でも相手にならないのに、こんな状態の素子など問題外。景太郎は歯牙にもかけず涼しい顔をしている。

 

 

「きさ「けいたろー、おっかえりー!!」

「ああ、ただいま」

 

 

いつの間に登ったのか、ツリーの天辺から景太郎に向かって跳び蹴りを繰り出すスゥ。

対し、景太郎はその繰り出した足に右手をそえると、円を描くように捌き、そのまま投げ飛ばす。

投げ飛ばされたスゥに皆はあっと驚くが、当の本人は猫の如く空中でクルッと体勢を整え、軽やかに着地する。

景太郎も、スゥの異常なまでの身軽さを知っているからこそ投げたのだ。

 

「ふん…化剄の応用か。合気も混じっているな。見事なものだな」

「そんなことよりも、帰りの挨拶が蹴りだと云うことのコメントは無しか?」

 

はるかの簡単の言葉に愚痴混じりの返事を返す景太郎。

そんな二人に、スゥが相変わらずの笑顔を見せる。

 

 

「にゃはははは、さすがけーたろーや。うちの蹴りがあっさりとかえされてもうた」

「なかなかに良い蹴りだ。だが、他の奴にはするなよ。危ないからな」

「わかった」

「よし、良い子だ」

 

子供に対するようにスゥの頭を撫でる景太郎。

スゥはそんな景太郎の行為に、くすぐったそうな、嬉しそうな顔をする。

 

 

「ところで、しのぶちゃんは一体どうしたんだ? いきなり泣き出すなんて…」

「さぁ、自分の胸に訊いてみれば」

 

冷たい声音で棘だらけの言葉を吐くなる。

そんな言葉に景太郎がどう言うことだと問い返すが、なるはプイッと拗ねたようにそっぽを向く。

 

 

「今朝、着飾ったお前が出かけていったのをしのぶが見かけてな。

それで、お前が女の所に言ったんだと思っていたのだ。しかし、まさか本当に行っていたとはな」

 

なるの代わりに答えるはるか。その顔は苦笑と呆れが混じっている。

 

「今日は特別な日なんでな。どうしても外せないんだよ」

 

そんな意味深な景太郎の言葉に、はるかを含めたこの場の皆が首を傾げる。

 

「……どういう意味だ?」

「わからないのならそれでも良い。所詮、あんたにとって『今日という日十二月二十四日』がその程度のことだって事だからな」

 

冷たい一瞥と共にはるかを突き放すようにそう言うと、景太郎は踵を返して大広間の入り口に向かう。

 

 

「おい神凪、どこに行くつもりだ」

 

「よくは解らないが、しのぶちゃんが泣いたのは俺の責任せいらしいからな。

とりあえず、しのぶちゃんに会いに行ってみる」

 

「それが筋だろうな。神凪、余りしのぶを悲しませるなよ」

「善処する」

 

それだけ言って大広間から出て行く景太郎を、素子は苦笑しながら見送った。

あいつに任せておけば、まずしのぶは大丈夫だろう…と、思いながら。

 

しかし、当の本人はと云えば……

 

(さて…参ったな、どうすればいいんだ? こういう時にとるべき行動は…まったく解らんぞ)

 

今までの人生の中で遭遇したことのない出来事に頭を悩ませる景太郎。

しかし、ふと自分がこんな事に必死に悩んでいることに気がつき、不思議な気分になる。

 

 

「参った、なんだか鶴子さんと闘っているときの方が楽な気がしてきたな…」

 

 

どうやってしのぶの機嫌を直すか、それを考えつつ、しのぶの氣を感じた場所…ベランダに向かう景太郎。

 

闘いよりも難しいと言いつつも、その気持ちが決して不快なものではないことに気付きつつ…

景太郎の足は、着実にしのぶの元へと真っ直ぐに進む。

 

 

 

夜はまだ長い…景太郎が、しのぶを連れて大広間に戻ってからでも……

ひなた荘のクリスマス・パーティはまだまだ続く。

 

全員が酔いつぶれるまでか、睡魔に負けるまでか…

 

 

 

そんな暖かくも騒々しいひなた荘を、空から静かに降る雪がゆっくりと白く染めてゆく……

白く…白く……美しく。自然の織りなす薄化粧でひなた荘を飾っていった……

 

 

 

―――――第十三灯に続く―――――

 

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