白夜の降魔・十七灯・その2

 

 

「あ〜こん畜生〜。無茶苦茶やりやがって……体力の限界だ……」

「右に同じ…俺も駄目だ。もう一歩も動けねぇ……」

 

 

夜の管理人室…つい先程まで火の玉から逃げまわっていたため、へばっている灰谷と白井。

全身汗だくの泥だらけで、所々が焦げていたりする。

それでも、怪我一つ無いのは悪運が強いのか、本人の実力か……まぁ、どちらでも良いことだ。

 

 

「運動不足解消にはなっただろ」

「「ああ、嫌ってほど解消したよ」」

 

 

景太郎の皮肉に言い返す元気すらなく、投げやりな二人……

ならばせめて…と座った目が景太郎をじっと睨んでいるが、

当の本人は素知らぬ顔で、この部屋にいる四人目…鶴子に目を向けていた。

 

 

「いつまでもへたり込むな。そろそろ起きあがれ」

「はいはい…」

「よっこらせっと」

 

 

疲れた顔のまま起き上がる二人。

疲れていたのは確かなのに、その動作は意外としっかりしている。もしかして回復が早いのだろうか?

 

 

「さて…二人も復活したことだし。そろそろ話を始めようか。

あんたが俺達に集まって欲しいなんて…それもこんな時間帯にだなんて、一体何の用だ?」

 

 

今現在の時間帯は夜の十一時……

はるかは下の家に戻り、皆は昼から続いた宴会疲れと、明日の学校のためにもう眠っている。

このひなた荘で起きているのは、この場にいる四人…

訂正、灰谷の頭の上に乗っているラブレスを含め、五人だけだ。

 

 

「深夜の時間帯……」

「それに、麗しい人妻に性欲真っ盛りの青年三人……」

 

「「もしかして、禁断の4―――――」」

 

「そんなに鬼ごっこの続きがしたいようだな……」

 

「「嘘っす!」」

 

 

下ネタを炸裂させようとした二人だが、懐から符を取り出した景太郎にすぐさま平伏する。

さすがに命懸けの鬼ごっこはもうごめんなのだろう。

 

 

「それで…どう云った話だ?」

「一言に要約すると…『頼み事』どす」

「頼み事? この俺にか?」

 

 

完全ではないとはいえ、景太郎と浦島一派は敵対関係にある。

一触即発…浦島から大きな手出し何かきっかけがあれば即座に全面戦争に突入しかねない。

 

 

鶴子はそれを承知の上で、景太郎の言葉にしかと頷いた。

 

 

「これから話す事ははるかはんにも…浦島にも聞かれてはあきまへんのや。

事は、神鳴流の威信に…いや、存在自体に関わるんどす」

 

「なるほどな…それで表上は関係のない俺達なのか。

しかし、穏やかな話じゃないな。日本で有数の退魔組織『神鳴流』の存亡に関わるなんて……」

 

 

神鳴流は裏の世界ではかなりの大手だ。

実力こそ神凪には及ばないとされているが、その組織力は完全に上回っており、幅広い退魔を行っている。

さらには術者の護衛なども引き受けている為、関東・関西の魔術協会などにも強いコネを持っており、

ある意味、主であるはずの浦島を超えていると言えなくもない。

 

そんな神鳴流の存亡に関わるほどの問題など…それこそ、とんでもないと言えるだろう。

 

 

「ちょっと待ってくれ。俺はしがない情報屋だぜ? そんな大事に巻き込まれるのはちょっとな…」

「俺だって、ただ家業を継いでいるだけの一職人だ」

 

 

灰谷と白井が鶴子の言葉に難色を示す。それが当たり前の反応だろう。

鶴子もそれを理解しており、気を悪くすることなく静かに頷いた。

 

ただし、この二人が『並』を自称することには大いに意見があるが……

 

 

「そうでしょうな。まぁ、話を最後まで聞いてから判断しておくれやす。

秘密を聞いたからには絶対に…という訳やありまへんから。

ただ、断った際には、口外しないことをお願いいたしますけど……」

 

 

鶴子のお願いに、まぁその程度なら…と、承諾する二人。

確かに、この二人は軽く見えるが馬鹿ではない。してはいけないことをしっかりと認識している。

それを見越して、鶴子は景太郎を含めた三人に重大な話をする気になったのだろう。

 

 

「さて…話は戻しまして、景太郎はん。〈鳳翔ほうしょう〉を覚えてはりますか?」

「鳳翔? 鳳翔というと、あの〈鳳翔ほうしょう家〉のことか?」

「そうどす」

 

「おい景太郎。二人で世界を作らずに俺達にも解るように説明しろ」

 

「ああ…鳳翔ほうしょう家というのは、神鳴流の中にある鍛冶師…その一つの家名だ」

 

「神鳴流の戦士が使う霊気の宿る武具を造る鍛冶師の家は複数…その中で鳳翔ほうしょうは最高峰の家柄どす。

鳳翔ほうしょうの造り出す武具は霊格が高く、秘める霊力も強い。

過去から現在に至るまで、その殆どが最高品質で重宝されてとります。

故に、鳳翔ほうしょうは『宝を生む』と書く”宝生ほうしょう”が語源だとも言われとります。

この刀…『五龍』も、鳳翔の先祖が造ったとされとります」

 

「ほぅ…それは一度会ってみたいな……」

 

 

鶴子の口から鳳翔の凄さを聞き、白井が興味津々と云った感じの顔になる。

白井は魔工技創師エンチャンター…同じ物を作る者として興味惹かれるのだろう。

ただでさえ、神鳴流の武具は秘匿されており、外部の人間が製造法を知ることができないのだ。

その興味も一層強まって当然だ。

 

 

「んな事より、その〈鳳翔ほうしょう〉という家がどうかしたのか?」

 

 

一方、灰谷はと云うとまったく興味ないのか、欠伸混じりで続きを促すと、鶴子は頷いて本題を切り出す。

 

 

「その鳳翔家の跡取り息子が…失踪したんどす」

「「なんだ、か……」」

「おいおい……」

 

 

対象が男だと聞いた瞬間、興味を無くす白井と灰谷…そんな二人の態度に思わずつっこんでしまう景太郎。

そんな即席漫才に眉一つ動かすことなく、鶴子は説明を続ける。

 

 

「失踪したのは去年の暮れ…鳳翔家の方から緊急の報が届きました。

跡取り息子…『鳳翔ほうしょう とおる』が―――――封印されし一振りの『妖刀』を持ち、失踪した…と」

 

「妖刀? ………ってまさか、アレをか!?」

 

 

大きな声と共に立ち上がる景太郎!

鶴子はその言葉を頷いて肯定すると、景太郎は苦々しい表情で座り直すと、クソッと短く罵声を吐いた。

 

 

「よりにもよってアレか……物盗りの線は無いのか?」

「いえ…あの妖刀を封じるために何十にも施されていた結界が、綺麗さっぱりに解かれとりました」

 

「無理矢理だろ。封印なんて云ったって所詮は人間のやること。同じ人間に解けないこと無いしな」

 

 

灰谷が思いついたことを口にする。

人の欲、業は想像以上に深い。欲すればどうやってでも手に入れたいと思うのだ。

力を持つ人間がその欲を持てば、いかな障害でも乗り越えて手に入れようとする。

 

その証拠に、石蕗と云う地術師の一族はとある妖精族の宝を手に入れるために、

妖精界…異世界にまで乗り込み、宝を強奪したのだ。

 

しかし―――――今回は違うようだ。

鶴子が灰谷の言葉を静かに否定した。

 

 

「無理矢理に破った形跡はありまへん。キチンとした手順で封印は解除されとりました。

そして、その数十にも及ぶ封印解除の手順は、鳳翔の当主と、その跡継ぎたる息子しかしりまへん。

そして、結界用の祭器には、解除の際に触れたであろうと思われる指紋が幾つも残っとりました。

〈鳳翔 透〉を唆した者…あるいは共犯者が居るかどうかまではわかりまへんが、

最凶最悪の妖刀―――――『ひな』を盗んだ犯人であることは疑いようがありまへん」

 

「厄介な事してくれたな、その馬鹿息子は……しかし、なんで誰も気がつかなかったんだ?」

 

「妖刀『ひな』は神鳴流の最大の禁忌として扱われとりました。

その封印されし地も秘匿され、鳳翔の当主と跡継ぎ、総代、神位であるうちの他、数名の長老しか知りまへん。

故に、見張りの者を立てることが出来ず、複数の警報結界に任せとりましたので……

気付いたのが、鳳翔の当主が週に一度の結界の点検に赴いた際なんどす」

 

「くだらない言い訳だな。人のやることに完璧は絶対にない。

秘して大勢に語れないのなら、信頼の置ける者数名にでも持ち回りで警護させりゃよかったんだ」

 

「それについてはなんも言い訳できまへん」

 

「ま、それについては神鳴流内部の問題だからこれ以上は口出ししないがな…

それよりも、妖刀『ひな』は、一度持てばどんな者でも狂気に侵され、殺戮の限りを尽くす……じゃなかったのか?」

 

「ええ。その通りどす。いかに意志が強かろうと、その狂気にはあらがえず、悪鬼羅刹に堕ちます」

 

 

自分の頭の中から、かつて師である総代に一度だけ…

口外せぬようにと念を押されて教えられた〈妖刀ひな〉の知識を口に出し、鶴子がそれを肯定する。

驚きもしないことから、景太郎が知っていることを鶴子は総代から教えられていたのだろう。

いや、知っているからこそ、景太郎に強力を仰ごうと話を持ちかけたというのが真実か……

 

ともかく、自分の知識を裏付けされた景太郎は、思いついた疑問を鶴子にぶつけた。

 

 

「なら、なんで鳳翔の馬鹿息子が妖刀『ひな』に惑わされていないんだ?

その息子の腕は知らないが、妖刀に魅入られたらまず最初に襲われるのは近隣にいる者達だ。

だが、そんな噂は…大量殺人があったなんて全く聞かないぞ」

 

「ああ。そんな噂はまったく聞いてないな。

いくら神鳴流が情報規制をしても、噂の断片ぐらいは流れるが、それもないからな」

 

 

景太郎の言葉に裏付けをする灰谷。

情報屋として、若手最高と謳われる彼の情報網は広く深い。

そんな大量殺人が日本国内であったとなれば、いくら秘されても半日と経たず耳に入っている。

それを知る景太郎は、どういうことだ? と云う感じで鶴子に視線を向けた。

 

 

「それは、ひなの『最後の封印』が未だに健在の証拠と考えとります」

「最後の…封印?」

 

「ええ。最後の封印…それすなわち、刀を納める『鞘』…人を惑わし、狂気に走らせるのは刀そのもの。

十数もの”秘術”を練り込まれた鞘に納められてさえいれば、刀は人に干渉することは出来まへん」

 

「なるほどな…しかし、それ故に馬鹿息子は事件を起こすことなく、逃げ回って所在が掴めない訳か」

 

「神鳴流の諜報を担う一族が目を光らせとりますんで、その手の事件が起こればすぐにわかります。

しかし、それも完全ではない…それに、うちとしては、できるのなら事が起きる前に解決したいんどす」

 

「別に、『ひな』が暴れまわったとしても、神鳴流が潰されるとは思えないんだがな……」

 

 

景太郎が現在の神鳴流の立場を考えて、ひなが解放された時の事を脳内でシュミレートする。

その結果、かなり立場が悪くなることは間違いなくとも、存亡に関わるほどではない。

となると……事の事件には、更に何かが隠されているのか。

それとも、妖刀『ひな』は景太郎が聞いた伝承をはるかに越えた力を秘めているのか……

後者の場合、少なくとも都市の一つを壊滅させる以上の力となるだろう。

 

 

「鶴子さん。妖刀ひなは―――――」

 

「済みまへんが、それ以上のことは語れまへん。

この相談もうちと総代の独断でのこと…ばれれば処罰を受ける覚悟で話とりますのや」

 

「………わかった。これ以上のことは聞かない」

「済みまへん。こっちから頼んでますのに……」

「それは構わない。それで、俺は何をすればいい?」

「協力…してくれますん?」

 

「ああ。神鳴流ではなく、あんたら親子からの頼みと云うことでな。

それにこの前…あんたが響子の墓前に手を合わせてくれた礼だ」

 

「ありがとう、景太郎はん」

 

 

景太郎に頭を下げる鶴子。正直、景太郎の協力は得られないと考えていた。

それでも、あの妖刀を野放しには出来ない…その考えで協力を仰いだのだ。

その景太郎の協力が得られ、鶴子は心の荷が随分と減った気分だった。

 

 

「おいおい。『俺は』じゃなくて『俺達は』だろ」

「そうそう。人妻でも美人の頼みは断れないからな。そんな話だったら尚更な」

 

 

鶴子に向かってビシッと親指を立てる灰谷と白井。

自分達の職業から、何を頼まれるかを理解している故に、気安く引き受けたのだ。

 

 

「俺は、その鳳翔の跡取りとやらの居場所を探せばいいんだな」

「んで、俺は職人仲間や顧客からそれとなく情報を手に入れればいい…と言うわけだ」

 

「俺は…どうすればいいんだ?」

 

 

情報収集能力では灰谷に及ばず、かといって別方面は白井が担当している。

自分のつて…退魔関係では、おそらく神鳴流の方が広く、根が深いだろう。

 

その事実に考えついた景太郎は、自分のすべき事が見つからず、頭を捻った。

 

 

「蛇の道は蛇……景太郎はんは退魔関連のつてで情報を集めてほしいんどす」

「とは云ってもな、その関係は神鳴流そっちの方が上だろうが」

 

「こう云ったことは少しでも人手が多いに越したことはありまへんからな。

それに、同じモノでも別の方向から見たら何か別の事がわかるかも知れまへんしな」

 

「なるほど。そこまで慎重に事を運ぶ気か…わかった。こっちもそれなりに調べておく」

 

「本当に、よろしゅうお願いします」

 

 

鶴子は快く引き受けてくれた三人に向かって、頭を深々と下げた。

 

景太郎はそんな鶴子を複雑そうな目で見た後…大きく溜め息を吐いた。

 

 

「しかし…〈妖刀・ひな〉か。これで表に出たのは三度目か。

一度目は遙か昔…その時には数多あまたの人を殺め、死山血河を世に作り出した。

二度目は、幕末の動乱期…不用意に持ち出した神鳴流の剣士が魅入られ、

操られるまま多くの志士や浪士を斬り、京都を火の海に沈めかけた。

そのあまりの禍々しさから『最凶最悪の妖刀』と呼ばれるようになった、強力無比な刀…か」

 

「誰かは知らないが、なんでそんなものを作ったのかね?」

 

 

白井は呆れと悲哀を滲ませながらそう言う。

同じ物を作る職人として気になるのだろう。

 

その言葉を聞いた鶴子は、開けられた襖から見える月を見上げつつ……

 

 

「…………そうでおますな」

 

 

―――――と、呟いた。

三人からは表情が見えなかったが、唯一景太郎だけは、鶴子の口調に秘められた悲しみを感じ取っていた。

しかし、あえてその事を追求せず…気付かないふりをして聞き流した。

 

その悲しみが…なぜか、自分の中にある悲しみとどこか似ていることを感じつつも…

それでも、景太郎は訊くことはなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――同日・深夜―――――

 

 

場所は京都、浦島の宗家屋敷の一画、もっとも厳重な箇所の一つである宗主の寝室にて……

 

高級な布団に包まれて眠る宗主の横に、人影が静かに佇んでいた。

襖などが開いた様子はない…だが、それでも人影がはっきりとそこにある。

 

その人影は小さく何かを呟いた後、片足を軽く上げ―――――

 

 

「おい、起きろ」

 

 

ドスッ!

 

眠る影治に向かって、人影が乱暴な言葉と共に布団越しに蹴りを入れた!

 

 

「クッ―――――誰だ!」

 

 

いくらなんでもそこまでされれば目が覚めないわけはなく、影治はすぐさま覚醒する。

そして、影治は目の前にいる侵入者に驚き、飛び起きようとしたが―――――

 

 

「”無駄だ、お前はその体勢から動くことは出来ない”」

 

 

侵入者の〈言葉〉を認識した途端、影治の身体が金縛りにあったかのように硬直する。

 

 

「なにっ―――――馬鹿なっ!?」

 

 

影治がいくら動こうとしても体は自由にならない。

彼とて浦島流の武術を学んだ身。氣による身体補強も行えるが、それでも体が自由になることはない!

 

 

「く…くぬぅぅっ!」

「安心しろ、別に危害を加える気はない。(俺はな……)」

 

 

侵入者はそう言うものの、その言葉からは冷たい感じしか受けず、少しも安心できはしない。

この侵入者はなんの感傷を抱くことなく、まるで道端の雑草でも引き抜くが如く、自分を殺す……

短い言葉の端々から、影治はその事をヒシヒシと感じていた。

 

 

(クソッ―――――だが、精霊術師を舐めるな!)

 

 

意識を集中し、水の精霊を召喚する影治。

身体が動かまいが、精霊魔術を使うのにはまったく影響はない。

 

自分の身体を奪っただけでいい気になっているこの侵入者を、八つ裂きにする。

その想像を実行するべく、影治は水の精霊に干渉する―――――その寸前!

 

 

「”無理だ。お前は精霊に干渉することはできない”」

 

再び、侵入者が影治の行動を否定する。

そして、先程と同じく侵入者の言葉を影治が認識するや否や、精霊の顕現させることができなくなった!

 

そこに存在する精霊を感じることはできる。

しかし、感じるだけで、干渉することがまったくできない。これでは魔術などの起動などできようはず無い。

 

 

「ば、馬鹿な。そんな……」

 

 

物心がつく以前より、手足を動かすとほぼ同義語のように扱っていた水術が使えない。

その事実は、水術師としての自分を根底から否定されたのに等しい。

それは彼にとって、何より許容できる事ではない!

 

 

「きさ―――――」

「”無駄だ。お前は声を出すことはできない”」

 

 

三度の否定の言葉。

そして今度も、その言葉の通り影治の行動は否定され、声を上げることができなくなった。

 

 

「―――――ッ!? ―――、―――――――!!」

(そんな馬鹿なっ!? 誰か、警護の者は何をしておる!!)

 

 

身辺警護の者達を呼ぼうとするが、声が出ることなく、誰も気がつかない。

それでも、この部屋に大量の水の精霊が集まっているのだ。

神鳴流なら強い力の高まりを、浦島の者なら大量の水の精霊を感知し、

此処の異常事態に気がつくはずなのだが、一向にその様な気配はない。

外は静寂のまま―――――夜の帳に包まれたままだった。

 

 

「無駄だ。この部屋は隔離させている。どんな大声を出そうとも、力を高めようと外の連中は気づきもしない」

「―――――!」

「ならなんで声を封じたのか…と、言いたげだな。五月蠅いから黙らせただけだ」

「―――――ッ!!!」

 

 

声は出ず、身体はまったく動かせない。そして水術も使えない―――――

影治はそれでも怒声を吐くように口を動かした後、侵入者を睨み付ける。

 

 

「俺が誰だか気になるようだなようだな…良いだろう。

”暗闇よ退け。この男に俺の姿を見せろ”」

 

 

その途端、周囲の闇が濃くなり、影治の目に侵入者の姿がはっきりと見えた。

侵入者の言葉通り、暗闇が退き、影治に侵入者の姿を見せるかのように―――――

 

そして―――――影治は侵入者の男の顔を見た。

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

声が出ないとわかりつつも、影治は男の顔を見て叫ぶ。

もし、彼が声を出せていたのなら、部屋に響き渡っただろう。

 

 

『なぜお前が此処にいるっ!』

 

 

―――――と。

唇の動きでそれを理解したのか、男は影治の声なき声に返事を返す。

 

 

「お前が知る必要はない。俺はただ、主命を遂行するのみ………」

 

 

影治が驚く様子に然したる興味も見せず、侵入者は更に近づくと、再び〈言葉〉を紡いだ。

 

 

 

結局―――――この影治の危機に気が付けた者は、誰一人としていなかった。

 

 

 

そして、これが―――――始まり―――――となる。

 

浦島が、そして神鳴流が永きに渡って行ってきた業によって起きる、戦いの―――――

 

誰も止めることのできない、大きな歯車が回り始めた……

些細なきっかけが―――――ほんの小さな一押しが、連鎖して巨大な歯車を回したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その様を、小さな闇は無邪気な笑みを浮かべながら、純粋な眼で楽しそうに見つめていた…………

 

 

 

 

―――――第十八灯に続く―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

……あとがき……

 

どうも、ケインです。

今回の話で、素子の一連の騒ぎは集結…そして、本格的に物語りが動き始めました。

妖刀『ひな』が盗まれた事を始まりに、浦島…そして景太郎へと続きます。

 

次の話から…徐々に始まる予定です。

 

まぁ、その前に関灯(ヴァレンタイン・ネタ?)と、外灯の予定があるんですけどね。

外灯は、景太郎のちょっと昔話…約四年前、景太郎が十六歳の時の話です。

 

景太郎が十六才の時、ある強大な妖魔との闘い…そんなお話です。

いや、本音を言えば、あるアニメを見ていて思いついた話なんですけどね。ちょっと長いです。

 

 

それと補足説明…

前回、五行…木・火・土・金・水に関し、色について様々な方からご意見を頂きました。

色々と勉強になりましたが、とりあえずこのままの色合いで行こうと思います。

五行の色合いは書いていると連想しにくいので…水が黒だったりしますからね。

 

 

それでは、次回の関灯―――――よろしければ読んでやってください。

(追記…灰谷が凄まじくはっちゃけます。それはもう本当に…その点をご了承下さい)

 

では……ケインでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

back | index | next