ラブひな IF 〈白夜の降魔〉
弐の外灯・七幕 「神の剣」
「全てを見通す千里の眼、数多を見抜く透視の眼―――――我が霊力を糧に、秘めし力を発現せよ」
その言葉は呪…いや、言霊。魔工技創師の最高峰の一人、教授が造り出した眼鏡に秘めた能力を発揮させる合い言葉。
その眼鏡が景太郎の霊力を吸収し、数々の能力を発揮する。霊力の出力を調整することにより、その能力の強弱を調整できる。そして今、景太郎の強い霊力を吸収し、遠視と透視の能力を付加された眼鏡が、伯爵級の吸血鬼が張った結界をも見通した。
(あれか…あの棺、その中にあるアレが奴の本体か)
それは漆黒の棺。黄金で美しく煌びやかに装飾された、棺と呼ぶにはあまりにも派手すぎる存在。主の性格が窺いしれる一品の中に、禍々しいモノが在った。
(直線距離で大体二百メートルと少々…十分あれの間合いだが、精霊の量が少ない。少量の破魔の炎では決定打にはならないな)
周囲を漂う破魔の炎…火の精霊を感じつつ、そう呟く景太郎。いかに破魔の炎が強力とはいえ、少ない精霊では引き出せる力、込められる意志力に限界がある。
(精霊が喚べない以上―――――やることはただ一つ)
「炎そのものの力を上げるまで―――――」
聖剣を垂直に構え、目を瞑り精神を集中させる景太郎。その身体からは極限まで練られた氣…神氣が、ゆっくりと立ち上っていた。
「なにやってんだよ、あのガキは! こちとら命懸けだってのに暢気につっ立ってんじゃねぇぞ!」
「少しは静かにしろ。全て景太郎君に託したのだ、信じて待て」
トムの怒声にマクシミリアンが拳銃に弾を装填しながら諭す。無論、マクシミリアンも景太郎が何をしたいのかさっぱり解らないが、言葉通り景太郎を信じて何も言わない。彼は何かする…そう、直感も告げていた。
「信じてるがよ―――――もう武器も何の役にもたたねぇんだぜ!?」
「それはこちらも同じ事。丁度弾切れだ」
トムの手には刀身がボロボロになり、こびり付いたマルキオの血のせいで聖性を失った小剣。そして魔眼は疲労が重なり使用はできない。
マクシミリアンも同じ、銀の弾丸は尽きた。精霊獣・ウルズも、先程マルキオの腕の一振りで砕け散った。その際、四分の一ほどの精霊が景太郎の元に行ったのは幸いだが、攻撃手段は無くなってしまった。
「二人ともさがってな!」
一丁の銃を片手で構え、マルキオに照準を合わせるエルザ。その銃はデザートイーグルではない。ベレッタ程度の大きさの銃だ。先まで使っていたデザートイーグルに比べ、子供のオモチャ程度にしか見えない。特に、銃身が白く、ところどころ装飾されており、さらには弾を込める所がどこにもないことが、その印象に拍車をかけている。
「これがあたしの切り札だ!」
小さな白い装飾銃より立ち上る淡い光。その光は銃口…その奥に集い、小さな穴から漏れる光が徐々に強くなってゆく。
「くたばれッ!!」
引かれるトリガー。だが、銃口より放たれたのはもはや弾丸ですらない。一筋の光の奔流。その閃光はエルザの狙い違わずマルキオの中心を貫いた―――――瞬間、
―――――ボンッ!!
破裂音と共に塵も残さず消滅する。あの〈福音弾〉でさえさほど通用しない怪物と化したマルキオが―――――だ。さらにはそのまま壁の一角を消滅させ、外へと飛び出した。
「相変わらず、恐ろしい威力だな」
「い、一体それは何なのですか……その力は…凄まじすぎます」
放たれた光の奔流のエネルギーを感じたのか、ピートが表情を強張らせながら質問する。
「〈ユニコーン・ブラスター〉―――――聖獣・ユニコーンの身体を素材に作られた『聖銃』さ」
「ユ、ユニコーンを、彼の気高き聖獣を素材にしたですって!?! そんな恐れおおいことを……」
顔を真っ青にして呆然と呟くピート。腹黒そうな所が見え隠れしているとは言え彼も神父。聖獣の身体で武具を作るなど、到底容認…否、信じられることではないのだ。
そんなピートの視線に、エルザは疲労がかなりはっきりと出ている顔で苦笑いをした。
「私がしたんじゃないわよ。ただ…」
「ただ?」
「使用者の〈生命〉を弾丸にするから、凄い疲れるんだけどね……」
その銃を使うと云うことは、言葉通り命削りの攻撃。エルザが聖銃を使うと言ったとき、グリニデが慌てて止めようとした訳を、ピートは今になって理解した。
「ま、それだけあって威力は福音弾の比じゃないわ。見ての通り―――――ね!」
再び引かれるトリガー。そして放たれる光の奔流が、復活したマルキオを再度消滅させる。
「命喰らいの聖銃さ。倒せないまでも…時間稼ぎはできる。さぁ…あたしの命が尽きるのが先か、あんたが坊やに殺されるか、どっちが早いかしらね」
エルザはそう言うものの、たった二発でもう限界なのが目に見えて解る。それを察したグリニデとトムは目配せして頷きあうと、それぞれの武器を構え、三度目の復活を果たしたマルキオに向かって飛び掛かろうとした―――――その矢先、白い輝きがホールを照らした。
その光にマルキオの動きが目に見えて鈍ったことに気付いたトムがその光の発生源に目を向けると、そこには白い炎を纏った景太郎の姿があった。
「なんだ、あの炎は?!」
「なんという炎…余波だけであのマルキオ公の動きを止めるとは。しかも、まだ高まっているだなんて……」
白銀の炎が景太郎の身体から立ち上る白き霊気に染まるその光景に、ピートは畏怖と驚愕の眼差しを向ける。高い感知能力があるゆえに理解しているのだ。あの炎が、自分が扱う術なんかとは格どころか、次元すら違うと云うことに。
だがしかし、ピートよりも更にこの炎の威力をヒシヒシと感じさせられている者もいる。そう、同じ炎術師であるマクシミリアン…彼の炎術師としての感覚が、景太郎の作り上げる白き炎が秘める力をいやがおうにも感じさせていた。
「まさか……これが〈神炎〉なのか? いや、そんなはずは…使い手は宗主と、その従兄弟しかいないと聞いた……だが……そうとしか考えられない」
「おいおっさん、なんなんだよ、その〈神炎〉ってのはよ」
マクシミリアンの呟きを聞いたトムが聞き返す。するとマクシミリアンは白昼夢でも見ているかのような表情で語りだした。
「炎術師の中で最強と称される神凪一族…その中でも宗家の炎は他の追随を許さぬ圧倒的な力を有すると言われている」
「ああ、あの坊主の家だろ。坊主を見てると十二分に納得できらぁ」
「その宗家でも極一部…特に傑出した者だけが持ちえる炎がある…と、噂程度に聞いたことがあった」
「その炎があの〈神炎〉ってやつなのか? 確かに、あれは尋常じゃねぇよ…霊感なんてあまり無い俺でも、あれの力を感じて震えが止まらねぇ」
「恥じることはない…私もそうだ。『神話の域に達するまでに凄まじい』と言われているらしいのだからな…」
「言うに事欠いて神話かよ…」
「私も、この目で見るまで与太話かはったりだと思っていたのだがな……」
握る拳を畏怖と恐怖に震わせながら、マクシミリアンは炎術師が操る炎の最高峰である『神炎』を食い入るように見つめる。
(キャサリン…お前の行おうとしている事は、『無茶』ではなく『無謀』のようだ……)
神凪を倒し、マクドナルドが最強だと云うことを証明する。そう明言していた姪御…マクドナルドの正統なる血筋の娘を、つい数日前までは頼もしく感じていたのだが…今は、どうやってもそう感じることはできない。目の前の次元違いの炎を目の当たりにした今では……
「精霊達よ……集え」
白々と輝く炎が舞い、景太郎が構える〈デモン・スレイヤー〉の刀身に集束される。この瞬間、デモン・スレイヤーは『聖剣』から即席ながら『神剣』へと変わったのだ。
「ハァァァアアッ!!」
刃から迸る白炎が切っ先を中心に渦を巻き、超高速で回転をする。もはや見た目は剣ではなくランス―――――ドリルのように回転し、標的を穿つ槍だ。
そして景太郎は身体を低くすると、床を蹴り、高く跳躍する。その高さは凄まじく、遙か頭上にあった天井にまで達し、上下逆さまとなって天井に足を着けた。
とんでもない跳躍力…景太郎の『氣』による高い身体能力強化もさることながら、神鳴流を源流とする特殊氣功術、“木氣”の一つ、風氣を用いた跳躍力の強化があればこそできる芸当だ。
「これで終わりだ―――――奥義『焔之流星』」
天井が爆発…足の裏に溜めた氣が爆発し、その強烈な推進力と重力の加速力により、景太郎が床に向かって一直線に落ちる。その姿は技の名の如く、天より地に落ちる流星の如し。
『サセルカァァッ!!』
景太郎の進路上に空間転移して現れるマルキオ。その身体を盾に、景太郎を止めるつもりなのだろう。
だが、そんな端末―――――伯爵位の吸血鬼とはいえ、分身体如きで止められるほど景太郎の技も、神炎も甘くはない。デモン・スレイヤーの切っ先が身体を貫いた瞬間、油を吸った紙に火を点けた如く、マルキオの分身体は一瞬で燃え尽き、消滅した。
マルキオ(本体)も必死なのか、硬度を増した何枚もの床と同時に空間の断層が景太郎の行く手を遮るが、双方とも神炎の前には薄紙以下でしか無く、遮る存在全てを神炎が“焼き”尽くす!
ならばと空間を歪ませ、景太郎の進路を変えようとするが、それも無意味。それすらも”燃やし”眼鏡の魔力により捉えた目標に向かい、景太郎は一直線に進む。その為に、時間をかけてまで本体を視認したのだ。
そして最後の結界も一瞬で突き破り、棺の蓋を消滅させ、中にいるミイラ―――――マルキオを刺し貫いた。
『ガァァアアアッ!!』
ミイラの身体から出たとは思えない絶叫が迸る。本来なら、景太郎の神炎は“伯爵”位であろうと即座に消滅させるほどの威力を秘めるが、精霊の量が少ないためそうはいかないようだ。
だが、マルキオにとってそれは災いだ。一瞬の消滅ではなく、己の存在を焼かれる感触を長く味あわなければならないのだから。
『私は…不死身の夜魔の貴族だ…人を超えたのに……なぜ……』
「確かにお前は強い…だが、この世にはそれすら超える存在がある。それだけだ」
『認メン…認メンゾォォ』
理解を超える存在を否定し、景太郎に枯れた手を伸ばすマルキオ。その無駄な足掻き、景太郎はなんの感情もうつらない瞳で見ていた。
「その考え、傲りが貴様の敗因と覚えておけ。これで終わりだ―――――無に帰れ!!」
『―――――ッ!』
景太郎の魂の輝きを写す炎に、マルキオは身も魂も、絶叫すらも焼かれ、この世から妖気の一欠片も残さず消滅した。
「そうやって、俺はマルキオ伯爵を滅ぼし、仕事の一つを完遂させたというわけだ」
「へ〜…」
「どうした、成瀬川。反応が薄いが……」
「ん? ちょっとね…もう、あたし達にはついていけないと言うか、想像もつかない世界だなって」
物語り的には良いのだろうが、目の前の人間が凄まじい戦闘力を発揮し、強大な吸血鬼を倒したと言われても、いまいちぴんとこないのだろう。特に、見た目で言えば童顔気味の一青年にしか見えない景太郎が対象だと尚更だ。
「それで良い。ついでに言えば、普通の人間が進んで関わる世界じゃない」
それは景太郎の限り無い本音。特に成瀬川には…彼女の妹には、裏には関わってほしくない。それが彼女の望みであり、景太郎の願いだった。
「神凪。それでやはり城は崩れたのか?」
同じ裏の世界の住民(予定)である素子の言葉に、軽く目を瞠る景太郎。その表情は意外だと言わんばかりだ。
「青山、よくその事に気がついたな」
「馬鹿にするな…と、言いたいが、以前、姉上から似たような話を聞いたことがあってな」
「まぁ、あの手のパターンは意外と多いからな」
「ちょっと何よ、二人だけでわかったような会話して…教えなさいよ」
不機嫌な顔で二人に問い詰めるなる。その表情を言葉に直すのなら、何二人っきりの世界作ってんのよ! だろう。
「それはですね、なる先輩。城の核、吸血鬼が倒されたのです。日本建築に例えれば、大黒柱が無くなったと言えるでしょう。そうなれば……」
「家は保たない…そうか、城が崩れちゃうのね」
「元は普通の城かもしれないが、その城中にマルキオが根を張り、自分自身の一部としていたんだ。そんな無茶なことをしていたんだ、奴が死ねば後は崩れ落ちるのみだ」
「私も昔、姉上が屋敷に取り憑いた妖魔を退治した際、瓦解したという話を聞いたので思いついたわけです」
「なるほどね……って、それって大事じゃない! その時景太郎って地下にいたんでしょ!」
「ああ。あの城の最深部にな」
「そんな……」
絶句する成瀬川、そしてしのぶ。最深部と言うことは、崩壊した城の瓦礫が全てのしかかるのだ。その総重量たるや、まったく想像もできない。
「心配してくれるのはありがたいが、過去の話だ。今俺が生きている以上、大丈夫に決まっているだろうが」
「あ、そう言えばそうでした」
今気がついたと言わんばかりにパァッと明るい顔になるしのぶ。本当に忘れていたらしい。
「すみません、つい…昔話でも聞いている感じで」
「まぁ、これも昔話は昔話だけどね」
「そんな事はどうでもいいわよ。一体どうやって脱出したのよ。まさかあんた、瞬間移動でもできるんじゃ……」
「それこそ『まさか』だ。俺も色々と術を身に付けたが瞬間移動はできない。身に付けたいとは思ったんだがな、それ系の術の才能が全く無かったんだ。色々とやったが何一つ身に付かなかったよ」
「ふ〜ん…それで、どうやって脱出したのよ」
「単純なことだ。マルキオが滅んで精霊魔術が使えるようになったからな。炎を使って、瓦礫を全部燃やした。一瞬で、跡形もなくな」
「跡形もなくってあんたね……」
瓦礫全てを跡形もなく燃やした…と、簡単に言う景太郎に皆は再び絶句する。瓦礫のほとんどは石、跡形もなく燃やした熱量など、凄まじいを通り越してとんでもない。
もっとも、景太郎がそれを行えたのは神炎であったからだ。普通の白銀の炎であれば、不可能でないにしろ、神炎使用時の数倍もの精霊の量と時間が必要だ。
「それで先輩。先輩のことは解りましたけど、他の皆さんはどうやって脱出したんですか? 確か、皆さんは最上階にいたんですよね」
「そう言えば、そっちにも居たのよね……」
「ああ、それなら大丈夫。あっちにはマクシミリアンさんが居たから」
「その人も炎術師ってやつなんでしょ。だったらなんで…」
「精霊獣だよ。精霊獣は魔術の構成を変えれば姿が変わるからな」
「そう言えば、分裂したり武器が変わってたっけ」
「そう言うことだ。城が瓦解し始めたのに気がついたマクシミリアンさんが、鳥型の精霊獣と翼を付けた守護精獣・フレイアを作って脱出したんだ」
「ほんと、魔術ってなんでもありね……」
なるはそう言って半ば呆れた顔になるが、それは精霊獣の技術に長けたマクドナルド家の者だったからだ。これが神凪の者となると、ほとんどの者が瓦礫に埋まって死ぬか、それ以前に高所からの落下で死ぬかのどちらかだ。助かるのはほんの数人しか居ないだろう。それも、自分だけが…と、頭につけなければならない。
神凪の者からすれば、炎術師が空を飛んだりできるか、自分の身を守るので精一杯だ。と、言うであろうが、そんな事はその場、その時となれば戯言でしかない。できなければ“死”しか道がないのだ。自分か、それとも守るべき存在か…が。
「それで、それからどうなったんですか?」
「当然、依頼人であるジョーンズ氏の元にシャロン嬢を返したよ。そして貰った報酬を皆で均等に分けたんだ」
「分けたって…吸血鬼を倒したら一億ってあれもか?」
「ええ」
「ッちゃ〜…なんでそない勿体ないことするんや」
なんて事を…と、額に手をあてながら呟くキツネ。そんな事をするんなら自分に奢れと言わんばかりだ。
「あの時は皆がいなければマルキオは倒せなかった…正直にそう思ったから、皆と分けたんですよ。それに、臨時収入もありましたしね」
「せや、話の途中でもそう言ってたな。なんやねん、臨時収入ってのは……」
「あれですよ、宝物庫。あそこから幾つか持ち帰ったんです。こんなのとか」
まるで手品みたいに景太郎の手の内に握り拳大の水晶みたいなものが現れる。ごつごつしいみてくれで、そのへんに転がっている石が透明になっただけ…そんな感じの水晶だ。
「ただの硝子の塊?」
「そんなわけ無いだろうが、成瀬川。これは金剛石だ」
「金剛石…コンゴウセキ…って、ダイヤモンドじゃない!」
「ああ。大部分は売り払ったが、多少は手元に残っててな。これはその一つと言うわけだ」
ダイヤモンドの塊をポケットに仕舞う景太郎。そのダイヤモンドをキツネが名残惜しそうな目で見ていたが、あえて無視だ。
「まぁ、そんなこんなでな、あの後エルザさんの提案でレストランを一日中借り切って宴会したというわけだ。金額は、俺とエルザさんを除いた皆の割り勘でな」
「羨ましい限りやなぁ…向こうはワインとかが美味いんやろ?」
「ええ。少しだけ飲みましたが、正直美味しかったですよ」
その時のことを思い出しているのか、懐かしそうに微笑んでいる景太郎。そんな景太郎を、キツネが心底羨ましそうな顔で見ている。酒好きの彼女に、美味い酒の話をすれば当然だろう。
「はいはい、そんな目で見ないで下さい。機会があれば良いワインでも奢りますから」
「ほんまやな、ほんまなんやな!」
「嘘は言いませんよ。でも、キツネさん。酒好きなのは良いですけど、まだ未成年なんだから、もう少し控えてください。しのぶちゃん達の教育に悪いです」
「うちは反面教師や」
「それは最低の言い訳ですよ……」
「神凪、そもそもこの場合は飲酒を止めさせるべきではないのか?」
「言って聞くようなら、とっくの昔にお前達が止めさせているだろうが」
「それもそうだったな…だが、その理屈からいくと、『控えろ』と言っても無駄だと言うことになるぞ」
「そうやそうや、無駄なことは止めとき。時間の無駄やさかいな」
「「自分で言うな(自分で言わないでください)!」」
「なはははははは!!」
ケラケラ笑うキツネに、同時に溜め息を吐く景太郎と素子。今更ながら、この人に何を言っても無駄だと強く再認識した。
(まったくこの人は…少しお仕置きが必要だな)
「ハァ…まぁいい、それじゃあ話はもう終わったから、部屋に帰ってさっさと寝ろ。いくらなんでも夜更かしのしすぎだ」
話はこれまで。と言う風に話を打ち切る景太郎。時計の短針はもう少しで『2』の位置に差し掛かろうとしている。付けっぱなしだったテレビも、最後の放送番組を終えようとしているところだ。
「そうね、いくら明日休みでも正直きついわ。夜更かしはお肌の天敵だしね」
乙女らしいことを言いつつも、乙女らしからぬ大きな欠伸をしながらそう言うなる。まだ隣でちょっと寝ぼけ眼で口に手をあて小さく欠伸をしているしのぶの方が乙女らしく見える。
「では、今夜はこれにて解散と言うことで―――――って、ちょっと待て神凪!」
「なんだ青山、スゥちゃんが起きるだろうが」
いきなり大声を上げる素子に、景太郎が非難の視線を向ける。
「うっ、済まない。と言うか、大丈夫なのか?」
「なんとかな」
景太郎の背中にしがみついたまま寝入っているスゥを見る素子。その心配は寝ているスゥではなく、スゥの寝相により首を絞められている景太郎に対してだった。
「これは本当に寝相なのか? なんだか凄い力なんだが……」
「本当に寝相だ。スゥは寝相が悪くてな、近くにあるものにしがみつくんだ。」
「しがみつくというか、締められているというか…よくコレと一緒に寝られるな」
「言うな…おかげで、寝ている時でも『氣纏』ができるようになった」
本当は、寝ている間でも『氣纏』…身体を氣で覆っていないと絞め殺されそうになるのだろう。まぁ、素子にとっては良い訓練だろう…が、その反面、スゥの寝相がかなり危険だという証拠でもあった。
「それはどうでもいいことだ。それよりも神凪、剣は…『デモン・スレイヤー』とか云う名の剣はどうなったのだ」
「おお、そうだったな。すっかり忘れていた」
「忘れるな!」
「うるさい。あの後、日本に帰るまで色々と面倒事があって、そっちの印象が強くて話すのを忘れただけだ」
「なんだか、剣が云々よりも私はそっちのことが気になるわね」
「気にするな、成瀬川。それまで話すと本気で夜が明ける。まぁ、そう云うことでどうなったのかだけを話すぞ」
「あ、ああ……(なんだか、私もそっちが気になるが……)」
なるどころか素子、しのぶやキツネまで『面倒事』が気になっているのか、好奇心に満ちた目をしていたが景太郎はあえて無視、剣がどうなったのかのみを話すことにした。
「あの剣だが…良い剣ではあったんだが、さすがに神炎の集束、奥義の使用にまでは耐えられなくてな、事が終わった後に刀身が砕け散ったよ。残ったのは柄だけだ。奥義だけだったら耐えられたんだろうが…そんな事できる状況じゃなかったしな」
「確かにそうだな…未熟者の私が言える言葉ではないのは重々承知だが、生きるか死ぬかの瀬戸際、剣を犠牲にしたのも致し方ないだろう。それで、柄はどうしたのだ?」
「黄金の騎士…それらしい人物を調べてな。その人物が仕え、マルキオの所為で滅びた国の城…その跡地がちょうど墓地になってな、そこに墓を作って供養した。
あの時は苦労したぞ、その国の王女と恋仲だということが判ってな、エルザさんがそれならその遺品と一緒に埋めてやろうとか言って、その遺品を探しまくって…いや、ほんと苦労した」
しみじみ呟く景太郎。その顔、その雰囲気から当時の苦労がそこはかとなく滲み出ているようだった。
「さて、これで本当に話は終わりだ。早く寝ろ」
「そうね、本当にそろそろ寝るわ」
「用意した酒も飲み終わったし…うちもそろそろ寝るわ」
「それじゃ先輩、お休みなさい」
「先に失礼する」
「待て青山、これを引き取っていけ」
「そうだな」
猫の子よろしく、景太郎に襟首を掴まれてぶら下がってスゥを受け取る素子。当のスゥはそこまでされても目が覚める気配はない。寝付きが良いというか何というか…夜中に地震が起きたときは真っ先に助けないといけない人物だ。
そして景太郎は五人は自分の部屋に向かって階段を昇ったのを見送った後、テーブルの上に残ったカップを盆に乗せると、台所で手早く洗い、部屋に戻って就寝した。
―――――翌日―――――
案の定というかなんというか、夜中の二時までずっと酒を飲み続けていたつけか、みごと二日酔いになり、青い顔をしたキツネが昼過ぎになって食堂に現れた。
本気で頭痛が苦しいのか、すぐにリビングのソファーに移動し横たわったその時、正月に見せた嘘臭い笑顔をした景太郎から二日酔いによく効く薬湯を貰い、一気に飲み干した。
そして…あまりの不味さに十分以上もリビングの床をのたうち回り、それから半日ほど死人のようにピクリともしなかったその姿を、ひなた荘の住民は景太郎を怒らすまいという思いと共に、記憶の一ページにしかと書き込んだのであった。
《弐の外灯―――――消灯》
―――――第十八灯に続く―――――
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。これにて『弐の外灯』は終了です。結構最後の方はおざなりになったんですが…どうも、呼んでいる方達も飽きてきたようなので、あっさりと終わらせました。
次回からは本編…浦島編に突入します。
時間的には成瀬川の東大合格発表の日です。それから始まる一連の事件というわけです。
神凪メンバーもそのうち出てくるかもしれません。何せ、神凪と同じぐらいの所になぐり込みですからね。
それでは、次回…は、九月ぐらいの予定です。よろしければ読んでやってください。では……
追記…今、お遊び半分でネギま(修学旅行編)とのクロスオーバーをちょこちょこっと書いてみたりしてます。時期的には浦島編の後ですね、今回の話の途中にあった陰陽術…改良した符を手に、景太郎が色々と立ち回る……なんて事が書けたらいいなと書いています。たぶん、来年の正月辺りのプレゼントですね。今年は『風の聖痕』編の第一話・プロトタイプでしたし。
そっちの方も、色々と構想はできていますし………余談ですが、かなりネタばれになりますけど、そっちの方も月一で投稿してもいいかな? と、考えたり考えなかったり……本当に余談でした。
それでは…………