簡単ファイル共有の時計付きファイルマネージャ―

 

 

綾乃が所有する、あらゆる魔性を滅する降魔の神剣『炎雷覇』が、人狼ワーウルフを斬り裂き滅する!!

 

 

―――――ことはなかった!

 

何と、あろう事か人狼ワーウルフが空いている右手で、炎雷覇を真正面から受け止めたのだ!!

 

 

「「そんなバカな!!」」

 

 

目の前で起きた信じられない現象に綾乃、そして可奈子ですら驚きを隠せなかった。

 

(まさか、ここまで私の予想を超えるとは―――――)

 

 

先程の人狼ワーウルフとの攻防。可奈子は本気で闘っているわけではなかった。

この戦いは一対多数の殺し合い、自分一人で戦っているわけではない。

故に、可奈子は無理にでしゃばることなく、より確実に相手を仕留める戦法を選んだのだ。

 

その戦法とは、

自分が人狼ワーウルフの注意を引きつけ、その隙をついて綾乃の炎雷覇によって攻撃、滅ぼす…というもの。

水昂覇も炎雷覇も、共に精霊王から賜った強力な神器だが、純粋な攻撃力では炎雷覇…火が最強。

そして、その炎雷覇と神凪宗家の力が合わされば、まさに強大。並の妖魔など問題にもならない。

 

―――――はずだった。

だが、今目の前で綾乃の持った『炎雷覇』は人狼に受け止められている。

その力を知っている者ほど、そのショックは大きかった。

 

 

本気マジかよ。たかだか人狼ワーウルフ程度が綾乃の炎雷覇を受け止めるだと?

今が夜で満月ならまだしも………薬物ドーピングでもやってるんじゃねぇだろうな」

 

 

人狼ワーウルフが本領を発揮するのは夜。更に言えば満月の夜。

だが今は昼間、さらに言えば今夜は新月だ。

時間的にも時期的にも人狼ワーウルフが十二分に力を発揮するのは到底無理。

 

和麻がそう思っていた時、人狼ワーウルフが人間だったときから身に付けているペンダントが目に写った。

他のもの…衣服などが引きちぎれても、唯一それだけは何事も無かったかのようにぶら下がっている。

 

それを見た瞬間、和麻の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。

半径数キロ以内の感知範囲で変わった異常がない以上、目の前の不可思議な現象に対する答えはただ一つ。

 

 

手前てめぇ、もしかしてそいつが…」

 

「さすがに気がついたか。そうだ、これは人狼族の秘珠〈満月の涙フルムーン・ティア

これさえ持ってれば、月の見えぬ昼であろうと、常に満月の恩恵を受ける。

しかも、人狼ワーウルフが身に付ければその効果は数倍まで上がる。

つまり、これさえ持っていればいつでも全力以上の力を出すことができるということだ!

貴様等がいかに力を持っていようとも、満月時の倍以上の力を引き出せる俺様には敵わん!」

 

 

「そうですか…それが”満月の涙フルムーン・ティア”ですか。ようやく見つけました」

 

 

そう可奈子が呟いた直後、水昂覇の刀身を構成する水が弾け、掴んでいた人狼ワーウルフを弾き飛ばす!

だが、人狼ワーウルフは然したるダメージも受けた様子はなく、少し後方に下がっただけだった。

 

刀身を無くした可奈子をフォローするように近づいた綾乃は、視線を人狼ワーウルフに向けたまま質問する。

 

 

「あなた、何か知ってるの?」

 

「数年前…次期宗主である私の修行の為に、ひなたお婆さまに連れられて世界中を巡っていたときの話です。

イギリスの奥地にあるとある森の中で、瀕死の重傷を負った人狼ワーウルフの子供と出会いました。

私とお婆さまは助けようと色々と手をつくしましたが、その甲斐なくやがて息を引き取りました」

 

 

淡々と語る可奈子の言葉に、その場にいる皆は黙って聞く。相対している人狼ですら…だ。

唯一例外なのは和麻。懐からタバコを取り出し、煙を吹かして聞き流している。

 

 

「その子供が亡くなる寸前、こう言っていました。

『村の宝が強奪された。やった奴は強奪した後、村の人間…女子供かかわらず虐殺していった。

自分はなんとか逃げ出してきたけど、皆死んでしまった。せめて宝を取り返したかった』と……

そして何度も『悔しい』と呟きながら、亡くなりました」

 

 

可奈子は相変わらずの無表情で淡々と語っているが、その瞳には〈怒り〉の炎が揺らめいている。

そんな可奈子に対し、人狼ワーウルフペンダントフルムーン・ティアを手の内で弄びながら一笑する。

 

 

「ほぅ…コレにそんな曰くがあったなんてな」

「白々しいことを」

 

「これはさる御方からの借り物でな。細かいことなどは知らん。

だが、こんな良い物を『宝の持ち腐れ』にするような無能な連中が持っているよりも、

こうやって俺様やあの御方に使われている方がこいつも幸せってもんだ」

 

 

その言葉に可奈子の目が鋭くなり、身体から怒りの霊気オーラが立ち上る!

 

(やっぱり兄妹だな…怒ったときの目つきがよく似てやがる)

 

怒ったときの景太郎と、今の可奈子の眼光がよく似ていることに気がつく和麻。

そして同時に、こうなった時の景太郎がかなり危険なことも思いだしていた。

 

 

「ならば、その”さる御方”とやらについて、洗いざらい吐いてもらいましょうか」

 

 

可奈子が召喚した恐ろしいほどの大量の水の精霊が水昂覇に集い、再び刀身を形成する。

その水の量、力の込めようは先程とは比べものにならないほどだ。

 

 

「いいだろう…ただし、私に勝てたらな!!」

 

 

人狼ワーウルフの振るった拳を各々の武器で受け止める綾乃と可奈子。

だが、二人は受け止めることができず、そのまま弾き飛ばされる!

 

 

「くっ、なんて馬鹿力!」

 

 

毒づきながらも空中で体勢を立て直し、上手く着地する綾乃。

水平に飛ばされた可奈子も着地したが、慣性の法則に従い床の上を滑ってしまう!

水昂覇の刃を床に立てて止まろうとするが、切れ味が良すぎてまったく止まる気配がなかった!

 

その可奈子の隙を逃さず、人狼ワーウルフが猛スピードで追撃をかける!

 

 

「一人目ーーー!!」

 

 

右手を後ろに引きながら三度目となる言葉を叫ぶ人狼ワーウルフ

残り数メートルを一足飛びに間合いを詰めながら右の鉤爪を突き出す―――――が!!

 

 

ドドドドドスッ!!

 

 

床下から突き出た数多あまたの銀色の錐が人狼ワーウルフを貫き、ハヤニエのように空中で固定する。

 

 

「な…に……?」

 

 

自分を貫く錐を見る人狼ワーウルフ。よく見ると、それは銀色でも金属ではなく、水で作られた錐だった。

 

 

「浦島流 水術  針水の舞」

 

 

危機ピンチと思われていた可奈子がすっと立ち上がりながら術の名を呟く。

 

先程、可奈子はわざと床を滑り、隙を見せて誘っていたのだ。

そして、止まろうと足掻いているように見せて水昂覇を床に突き刺し、

気づかれないように床下に大量の水を配置し、針のように鋭い錐として出現させたのだ。

 

 

「いかに満月時以上の回復力があろうと、私の水につけられたその傷は簡単には治りませんよ」

 

 

床に突き刺していた水昂覇を抜く可奈子。それと同時に、無数の水針も床下に引っ込んだ。

身体の至る所に穴を穿たれた人狼ワーウルフは床に落ちると、片膝立ちしながら術者である可奈子を睨む。

 

 

「許さねぇぞ、このクソアマァ……」

 

 

呪詛を吐きながら立ち上がる人狼ワーウルフ。一向に塞がる気配のない傷穴から、ボタボタと血が流れ落ちる。

しかし人狼ワーウルフはそれを無視し、力を振り絞って可奈子に襲いかかろうと全身に力を込める。

 

だがそれよりも先に、突如人狼ワーウルフの胸元から緋色の刀身が生える―――――否、突き出る!

 

 

「あたしを無視すんなって………」

 

 

人狼の背中から炎雷覇を突き刺している綾乃が、柄を思い切り握りながら力を高める!

 

 

「―――――言ったでしょ!!」

 

 

その直後、炎雷覇を通して凄まじい量の炎の精霊が人狼ワーウルフの体内に送り込まれ、内側から燃え上がる!!

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

人狼ワーウルフは断末魔の声すら上げる暇もなく、黄金きんの炎に包まれて消滅した。

そして、綾乃の炎でも燃えることのなかったペンダントが、硬い音をたてて床に落ちた……

 

人狼が先程、炎雷覇と水昂覇を受け止められたのは、両の手に妖気を集中させていたからだ。

故に、それ以外の箇所…背後からの綾乃の攻撃が容易く決まったのだ。

 

 

「ふふん。一丁上がりってね」

 

 

得意満面な笑み浮かべながら勝利宣言をする綾乃。

しかし、そんな綾乃を可奈子は非難と若干の怒りの混じった視線で睨んでいた。

 

 

「綾乃さん。あなたという人は……」

「な、何よ……」

 

 

可奈子の視線に些か気圧される綾乃。

非難される謂われも、怒られる理由も解らないといった感じだ。

 

 

「あなたは人の話を聞いていなかったのですか? この人狼ワーウルフの後ろに黒幕がいたのですよ。

それを、聞き出すこともしようとしないで、あっさりと滅ぼす人がありますか!」

 

「あ、そういえば……」

「まったく。人がせっかく死なない程度に痛めつけたというのに……」

 

 

わざと手加減していたという可奈子の行為をあっさりと無にしてしまった綾乃は、

何も言えずにただ口ごもるだけだった。そんな綾乃に、今度は和麻がじっと見据えて一言…

 

 

「ふぅ……バーカ」

「うぐっ………」

 

 

和麻のこれ以上ないくらいの単刀直入な言葉に、綾乃は噴出しそうな怒りを必死に自制する。

ひとえに、自分の失態であるが為だ。それなのに暴走すれば、和麻どころか最愛の父にまで呆れられる。

 

 

「で、でもさ、ほら、そのペンダントは取り戻したんだし。一応、これはこれで結果オーライってことで…だめ?」

 

 

態とらしいまでに可愛く見せて必死に取り繕おうとする綾乃を見て、可奈子は深い溜め息を吐いた。

その溜め息は、雄弁に『これ以上言っても仕方がない』と語っているかのようだった。

 

 

「そうですね。これはこれでいいのかもしれませんね。とりあえずは…ですけど」

 

 

そういって可奈子は床に落ちているペンダントを拾おうと手を伸ばす。

 

―――――次の瞬間!!

 

 

 

轟ッ!!

 

 

 

突如発生した突風に可奈子が吹き飛ばされた!!

 

 

「和麻、なんで!!」

 

 

風をおこし、可奈子を吹き飛ばした犯人を糾弾する綾乃の声が廃ビルに響いた……

 

 

 

―――――壱の外灯〈後編〉に続く―――――

 

 

back | index | next