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ラブひな IF           〈白夜の降魔〉

 

 

 

壱の街灯・後編 「現れし狼、鮮血の如く―――――」

 

 

 

 

 

唐突に発生した突風に吹き飛ばされる加奈子。

綾乃はその風を…否、その現象を起こした当人に振り返って責めるように叫んだ!

 

 

「和麻!あんたなにを―――――」

 

 

 

だが、その言葉を遮るように凄まじい轟音と共にビルの天井が爆発し、

同時に何かが先程まで加奈子が居た場所に降り立った。

 

状況から考えて、その降り立った何かが天井をぶち破り、目の前に現れたのだろう。

 

 

「な、な、ななななな―――――」

 

 

何なの一体! と、言いたいのだろうが、突然のことで上手く舌が回らない綾乃。

そんな綾乃に、

 

 

「さっさと気を引き締めろ。今度の奴はレベルが違うぞ」

 

 

目つきを鋭くした和麻が叱咤する。

そのおかげで平静を取り戻したのか、綾乃は「分かってるわ」と返事し、

炎雷覇を正眼に構え、目の前にいる何者かに神経を研ぎ澄ます。

 

 

「すみません。私としたことが、終わったと思って油断していました」

 

 

水昂覇を構えながら綾乃の隣に立つ加奈子。

見た目に傷一つついていないので、和麻が上手く風を操ったのか、それとも上手く受け身を取ったのだろう。

 

助けるためとはいえ、手荒な方法をとった和麻に対し、加奈子は感謝しても非難している様子は微塵にもない。

あのままであれば、下手をすれば死、最善でもそこそこの怪我を負っていたことを理解しているからだ。

 

そんな加奈子に対し、和麻は口の端を軽く歪め、軽薄そうな笑みを作る。

 

 

「ああ、気にするな。俺は保身のためにやったんだ。

なにせ、お前に何かあったら景太郎になにされるか分かったもんじゃないからな」

 

「そんな……」

 

 

和麻に言葉に、頬を赤らめつつ恥ずかしそうに俯く加奈子。

その加奈子の態度に、勘違いしたままの綾乃の柳眉は大きくつり上がる!

 

 

「あらら〜、綾乃ちゃんたらやきもち焼きさんなんだから。しゃきっとしないと和麻さん取られちゃうよ!」

「和麻さんも罪作りだね。綾乃も苦労するよ」

「ニャ〜〜」

 

 

この状況でもまた平気で軽口をたたける由香里と七瀬。

綾乃の正体を知り、幾度となく怪奇現象に首をつっこんでいるせいか、変な意味で綾乃よりも度胸が据わっている。

そして、いつの間にか七瀬に抱き上げられていた〈クロ〉が、そんな二人に同意するかのように一鳴きする。

 

そんな二人(と一匹)に、顔を真っ赤にした綾乃が顔だけ振り返って怒鳴る!

 

 

「なんであたしがあいつのことで苦労しなくちゃならないのよ!」

 

「綾乃ちゃん、もうそろそろ自覚しても良いんじゃない?」

「そうだね。此処まで鈍いと天然記念物ものだね。それとも、わざと気づいてない振りしてるのか?」

「ウニャ〜」

 

 

綾乃の剣幕などなんのその、二人と一匹はヒソヒソと話し始める。

 

再度怒鳴ろうとした綾乃だが、目の前の敵が強いことだけは経験と勘が理解しており、

恐ろしいほどの血生臭い気配に、今回は油断していたら冗談抜きでヤバイ―――――と考え、

意識から七瀬と由香里の戯れ言余計な雑念を無理矢理排除し、目の前の”敵”に集中する。

 

 

 

「お話はもう終わりかな?」

 

 

人を小馬鹿にしたような口調の敵…それは、またもや人狼だった。

しかし、先程の人狼の毛並みは暗い茶色だったが、今度の人狼は毛並みも瞳の虹彩も鮮血の如き真紅であった。

 

その真紅の人狼は自分に警戒する人間…和麻達を尻目に、足下に転がっていた人狼族の宝を拾い上げる。

それを見た加奈子は、絶対零度のような闘氣を放ちつつ、人狼に向かって声をかける。

 

 

「それに触れないでください。それはあなたが触れて良いものではありません」

 

 

その闘気と同じく、加奈子は全てを凍らせるような視線で人狼を睨む加奈子。

そんな加奈子に対し、真紅の人狼は右手で”人狼族の宝フルムーン・ティア”を玩びながらニヤリ…と嗤う。

 

 

「そうは言うがな、これは元々我の物だ。

貸していた物は返してもらわなければなるまい…これは人間でも常識だろう?」

 

 

さも当然といった感じでそう言うと、真紅の人狼は見せつけるかのようにペンダントフルムーン・ティアを自分の首に下げる。

その行為、言葉に加奈子の身体から蒼銀色の怒りの霊気オーラが立ち上る!

 

 

「ということは、あなたが人狼族の村から宝を強奪した挙げ句、大量虐殺まで……

盗人猛々しいとは、まさにあなたのためにあるような言葉ですね」

 

 

怒りの霊気オーラを立ち上らせつつも静かな声音の加奈子。

 

”怒り”は炎のさが。『烈火』の如き激甚な怒りは炎の精霊と同調する鍵。

対し、水のさがは『清流』―――――優しき澄んだ心で全てをあるがままに受け入れる。

それが水の精霊と同調する鍵。その器量がある者こそ、一流の水術師となれる。

 

そう―――――全てをあるがままに。怒りも、悲しみも、全てを受け入れ肯定する。

今、自分が奴に殺されたあの人狼ワーウルフの子供のための怒りも、

 

 

「あの子の…貴方に殺された罪無き人狼達の無念、今ここではらさせてもらいます」

 

 

何の関わりもなかった人狼の一族の悲しみも肯定し、全て受け入れる。

その心がある限り、水の精霊は加奈子に進んで協力するのだ。

 

 

「ああ…そう言えばそんなこともあったな。なに、村の連中で手に入れた宝の効果を試してみただけさ。

結構強い人狼族と聞いて期待していたが、『穏やかな暮らし』とやらぬるま湯に浸かりすぎで腑抜けてて拍子抜けだったぜ。

だがまぁ、昼間の人狼は脆弱だという事を再認識できた。それだけでも奴等の価値はあったということだな」

 

「………言いたいことはそれだけですか? それならもう死んで下さい。

これ以上、貴方の声を聞いているだけでも不愉快です」

 

 

水昂覇を両手で持ち直しながら、凄まじい闘氣を人狼にぶつける加奈子。

その闘氣を真正面から浴びながら、人狼は愉快そうに口の端を歪め、笑みの表情を作る。

 

 

「ほほぅ…なかなかの威圧感、実に心地好い」

「心地良いって、マゾか手前てめぇは」

 

人狼の言葉にチャチャを入れる和麻。

上位妖魔にも匹敵しそうな凄まじい妖気を前に、よく余裕があると感心できる。

 

 

「被虐思考はない。我はただ、殺戮に至上の愉悦を感じるだけ。

それも弱者をいたぶるのではない、生か死かデッド・オア・アライブ。それほどの死闘の末の殺戮を求めているのだ。

故に、相手が並では困るのだよ。その点では、汝等は見事〈ガル〉を倒した。文句の付けようもなく合格だ」

 

「その〈ガル〉ってのはさっきの人狼ね。ということは、アレの相手ですら試験だったって云うわけね」

「その通りだ。汝等には我と死闘を演じる資格を与えよう」

 

「いらねーよ。そんなクソの役にもたたねぇモン」

 

 

右の親指を下に向けた手を人狼に突き付けながら吐き捨てる和麻。

確かに、その様なものを喜び勇んで貰うような輩などいないだろう。だが―――――

 

 

「強制授与だ。拒否は認めん…さぁ、無駄話はここまでだ。

そろそろ始めようか……血と暴力の楽しい饗宴をな!」

 

「どちらにしろ、手前てめぇが変態であることには変わりはねぇな」

 

 

三度みたび減らず口をたたく和麻。

何度も言うようだが、緊張感がないと取るべきか、それとも余裕の現れと取るべきか。

 

少なくとも、人狼は後者ととったようだ。口の端を歪め、愉快そうな笑みを浮かべる。

 

 

「始める前に教えておこう。我が名はガノッサ、人狼族〈ディストーション〉の者。

貴様等を殺す者の名だ。あの世への手向けに憶えておくが良い!!」

 

「―――――ッ!!」

 

 

人狼―――――ガノッサの自己紹介が終わると同時に、その姿が消え、和麻の後ろに現れる!

そして和麻の頭部に向かって振りかぶっていた鉤爪を薙ぐ!

 

 

「ちっ!!」

 

 

自らの頭部を狙う攻撃を咄嗟にしゃがんで避ける和麻。

そして、立ち上がる動作と一緒にガノッサの鳩尾に向かって左の肘を突き出す!

 

しかし、ガノッサは余裕綽々で和麻の肘を受け止める。

 

 

「ふっ、なかなかの反応だ。こうでなくてはな」

「そりゃどうも!!」

 

 

言葉を返すと同時に、そのままの体勢でガノッサの腹部に向かって右の掌打を繰り出す!

身体を盾にしたその一撃はガノッサの視界からは見えていない。だが―――――

 

 

「甘い―――――むっ!?」

 

 

肩の動きで察したガノッサはその攻撃をもう片方の手で受け止めようとしたが、すぐさま横に跳んで避ける。

その直後、ガノッサの脇腹辺りの体毛が千切れ飛び、

和麻とガノッサの直線上にあった壁の一部が爆発音と共に砕け散る。

 

 

「チッ―――――くそったれ」

 

 

掌打と共に放った空気の圧縮弾を避けられたことに悪態をつく和麻。

もしあの一撃をガノッサが受け止めていれば、その手は吹き飛んでいただろう。

 

 

「見事!」

 

った!」

 

 

和麻の攻撃を賞賛していたガノッサの背後に現れる加奈子。

そしてそのまま、水昂覇でガノッサを頭頂から股下まで、真っ二つに断つ!

 

しかし、加奈子は悔しそうな顔をすると同時に、両断されたガノッサの姿が掻き消えた!

 

 

「―――――残像!」

「ご名答」

 

 

背後からの声に振り向く加奈子。そこには鉤爪を自分に向かって突き出したガノッサの姿があった!

 

 

「くっ!! (防御が間に合わない!!)」

 

 

反射的に水昂覇の水を使って防御壁を張ろうとしたが、

あまりにも時間が無く、薄い膜程度の半端な代物しかできない!

 

その程度の膜など一瞬にして破られ、鉤爪は自分の胸元を貫く―――――加奈子がそう直感した直後、

横手から数発のプラズマ火球がガノッサに直撃する!

 

その火球の爆風に飛ばされた後、加奈子は床を転がり体勢を立て直した。

通常なら重度の火傷でも負っていただろうが、防御のための水膜が熱を遮断したため、然したるダメージはない。

 

 

「助かりました!」

「お礼は後! あいつまだ生きてる!!」

 

 

視界を鮮明にするため和麻が風で爆発による煙を吹き飛ばす。

するとそこには、まったく無傷のガノッサが悠然と立っていた。

神凪の浄化の炎による、厚いコンクリートすら容易に溶かすプラズマ火球を直撃したのに……

身に纏う妖気はまったく減りもせず、体毛すら焦げ目がついていない。

 

(こんちくしょう…和麻の攻撃は効いたのに!!)

 

和麻の攻撃が効果があり、自分の攻撃は無効。

その事実に、綾乃は歯噛みするほど悔しがる。上をゆく和麻に…ではなく、未熟な自分の術に。

 

だが、綾乃の考えは若干間違っていた。人狼ガノッサとて、先程の一撃をまともに受けて無傷ではすまない。

しかし、ガノッサは直撃する寸前、妖気を集束させた拳で複数のプラズマ火球を一つ残らず迎撃したのだ。

余波である爆風では、ガノッサには傷はつかず…結果、焦げ目一つ無い無傷だったという訳なのだ。

 

ただし、その爆風でさえも下級妖魔を一ダースほど消滅させる威力があったが……

それすら遮断する人狼ワーウルフの身に纏う濃い妖気…凄まじいとしか言いようがない。

 

 

「面白い…面白いぞ。今まで我にここまで食い下がったのは人間では初めてだ!!」

 

 

歓喜と云わんばかりに高笑するガノッサ。

その様子に対し、和麻は面倒くさいと云わんばかりに溜め息を吐く。

 

 

本気マジでさっきの奴とは比べ物になんねぇぐらい強ぇな」

「なに、弱音? 勝つ自信ないの」

「ほざけ。百万ぽっちじゃわりにあわねぇって言ってんだよ」

 

 

綾乃の挑発混じりの言葉に、和麻はシニカルな笑みを見せる。

それが、綾乃なりのはっぱのかけ方だと熟知しているからだ。

 

 

「でも、本当にさっきの奴とは桁違いね。たかが人狼がここまで強いものなの?

あたしも今まで何回か倒したことあるけど、それらに比べたら強さの次元が違うわよ?」

 

「一口に”人狼ワーウルフ”と云っても、様々な種族があり、強さもそれぞれですからね。

ですが、綾乃さんが知っているのは”人狼ワーウルフ”ではなく亞種の”狼男”なのでしょう。人狼ワーウルフとは…」

 

 

綾乃の疑問に答える加奈子。

 

 

人狼ワーウルフとは一応『魔』に属するが、自然界に存在する一種族。

魔界に存在する妖魔とは別種であり、言うなれば夜の世界の住人、人とは違う進化をした生命体である。

世間一般で思われている人狼ワーウルフ…妖魔である『狼男』とは完全に別種で、その強さも桁違いに高い。

 

そして、綾乃が知っているのは”人狼”の類似…完璧に妖魔に属する”狼男”だ。

はっきり言って”狼男”は妖魔としても下位で、綾乃や煉神凪の宗家はもちろん、分家でも十二分に勝てる存在でしかない。

 

 

「なるほどね…」

「感心してんじゃねぇよ。その程度は裏の世界じゃ常識だ、常識。前にも言ったかもしれんがもっと勉強しろ」

「う、うるさいわね…で? その人狼ワーウルフの中でもあいつはどれぐらいなの?」

 

「はい…先も言いましたが、人狼ワーウルフと云っても様々な種族に分かれています。

その種族により、強さも、主義も、そして気性も違います。

今現在で最強と目されているのは〈人狼王ワーウルフ・キング絶望ディスペアー〉の一族。

そして、アレガノッサの〈ディストーション〉の一族は、ある意味格別なのです」

 

「格別ね…頭の切れぐあいがか?」

 

 

加奈子の説明にちゃちゃをいれる和麻。

そんな和麻に綾乃はきつい目で睨むが、当の加奈子は真剣な顔で一回頷き、和麻の言葉を肯定した。

 

 

「その通りです。元々人狼ワーウルフは人の”知性”、狼の”強さ”を合わせ持つ、ある意味完璧に近い種族。

ですが、その人狼族の中でも狼の〈凶暴性〉が突出し過ぎた一族…それが〈ディストーション〉です。

その一族は血と殺戮を好み、同族、果ては親兄弟で嬉々として殺し合う、家族を尊ぶ狼にあるまじき存在です」

 

「なるほどな。だから〈歪みディストーション〉か。そりゃまた御大層な名前だな。

俺もそこまでは知らなかったが、お前を見ている限りはピッタリすぎる名称だ」

 

 

はっ…と一笑する和麻。まったくもって余裕綽々の態度。

加奈子の説明を聞いて、怖じ気つく様子も、気負う様子もまったく見せていない。

 

 

「あんたね、なんでそんなに余裕なのよ! アレはある意味〈流也〉より強いのよ!!」

 

 

昨年、神凪の滅亡を賭けて闘った上級妖魔並の敵を引き合いに出す綾乃。

その強さは和麻とて知ってはいる。綾乃の言っている意味も、十二分に理解している。

なにせ、実質その一匹の妖魔の所為で神凪は滅亡の一歩手前まで追い込まれたのだ。

 

 

「あいつも言っただろうが。どんな人狼ワーウルフだろうが、昼間は大したことはないってな」

「だから、それはあの”ペンダント”のせいで克服されているでしょうが!」

「だったら、あのペンダントを奪って奴が弱ったところを一気にればいい」

 

 

いとも簡単な事のように言う和麻。

実際はそれはかなり難しい行為なのだが、綾乃は和麻がそう言うと不思議と簡単なことのように思える。

まるで一割以下だった確率が一気に跳ね上がるかのように。

 

そんな和麻の言葉に、ガノッサは目を細めてニヤリと笑う。

 

 

「いい着眼点だ。だが、こうすればどうかな?」

 

 

そう言うや否や、ガノッサはペンダントを掴んで鎖を引きちぎると、そのまま口元に運び…飲み込む!

喉の動きから、完璧に飲み込み、胃の中に入ったことがはっきりと解る。

 

 

「うげ……」

「なんということを…」

「消化に悪そうだな」

 

 

あからさまに気味の悪い顔をする綾乃と、とんでもない行為に絶句する綾乃。

最後の言葉は呆れ返っている和麻だ。

最悪な状況になってもなお軽口をたたける余裕は、もはや”さすが”と賞するしかないだろう。

 

 

「くははははは! さぁこれでどうする風使い。

アレフルムーン・ティアを我から取り上げたいのであれば、腹を破るしかないぞ?」

 

「それしか方法がねぇのならやるまでだ。ただし、破るんじゃなく―――――斬り裂いてな」

 

 

ガノッサの腹部に向かって、今まで以上に力の篭もった風の刃を放つ和麻。

言葉とは裏腹に、腹を斬り裂く以前にまともに当たれば胴体を真っ二つにする程の一撃だ。

 

その風の刃に対し、ガノッサは妖気を集束させた右の掌を向ける。

 

 

「―――――ッ!!避けろ!!

 

 

和麻が綾乃達に叫ぶ。そして三人がその場を横飛び散会すると同時に、

ガノッサの右手から放たれた妖気の奔流―――――妖気砲がその場を通り過ぎ、壁に大きな穴を空ける!

 

 

「あービックリした…」

 

 

妖気砲によって空いた壁の大穴を見て驚く綾乃。

感覚が鈍いと云われる炎術師綾乃でも、今の攻撃がかなりやばいものだと解ったのだ。

 

 

「ちっとばかり洒落にならねぇ…こんな事なら、景太郎を無理矢理にでも呼んでおけばよかったぜ」

「今更言ったってしょうがないでしょうが」

 

「お前に言われなくてもわかってる。

ないものねだりしたって仕方がないからな、面倒くさいが少々本気を出すか……」

 

 

和麻はそう言うと表情を引き締め、戦闘態勢に入る。

綾乃と加奈子もそれぞれの家宝を構え、戦闘態勢に入った。

 

 

「―――――お先に!」

 

 

最初の一歩目でトップスピードに入った綾乃が、その言葉を置き去りにガノッサとの間合いをつめる!

 

 

「せいっ!!」

 

 

綾乃が炎雷覇をガノッサ目掛けて袈裟懸けに斬りかかる!

それをガノッサは紙一重で避けると、そのまま綾乃に向かって反撃を―――――

 

 

「させません」

 

 

させまいと水昂覇で攻撃を仕掛ける加奈子。

反撃のタイミングを奪うように、加奈子が綾乃の攻撃に合わせる。

 

 

「「ほぅ!?」」

 

 

綾乃と加奈子の連携に感嘆の声を上げるガノッサと和麻。

ガノッサはその見事な連携に。和麻は綾乃の攻撃に絶妙に合わせる加奈子の高い技量に感心したのだ。

 

綾乃の”剛”の剣技と加奈子の”柔”の剣技が見事な連携を奏でていた。

その二人の連携に避けきれないと判断したのか、ガノッサが両手に妖気を集束し、炎と水の刃を受け止め、

 

 

「フンッ!!」

 

 

身に纏う妖気を爆発的に高め、加奈子達を妖気の衝撃波で吹き飛ばす!

そしてガノッサはその隙をついて二人を迎撃しようとしたが、今度は和麻の放った数発の風の刃が襲いかかる。

 

 

「クッ―――――小癪な!」

 

 

ガノッサは風の刃を全て紙一重で避けようとしたが、

避けられないような絶妙な位置、そして微妙にタイミングがずらされた攻撃ゆえに諦め、その場を飛び退く。

 

(よし、どんぴしゃ!)

 

それこそ和麻の狙い通り。

飛び退くことによって生じた一瞬の隙をつき、ガノッサの懐に入る!

 

 

「ムッ!!」

 

 

野生の勘か、和麻の強さを感じ取るガノッサ。

その直後、腰だめに構えていた和麻の拳がガノッサの腹部に向かって放たれる!

凄まじいほどに氣を練りこんだ一撃に、和麻より二回り、否、三回りは大きいガノッサが大きく吹き飛ぶ!

 

だが和麻は吹き飛んだガノッサを見て悔しそうに舌打ちする。

和麻が攻撃を繰り出した瞬間、ガノッサは身体を後ろに引き、拳を膝で受け止めたのだ。

 

(クソッ―――――あのタイミングで防御しやがった!)

 

 

拳を強く握りしめる和麻。

その時―――――和麻の横を黒い影が横切り、ガノッサに迫る!

 

 

「止せっ、深追いするんじゃねぇ!」

 

 

黒い影―――――疾走する加奈子に和麻が止まるように怒鳴る!

だが、加奈子は和麻の制止の声を無視し、さらに速度を上げた。

 

近づいて来る加奈子の気配を感じたのか、ガノッサは空中で一回転をして着地し、迎え撃つ体勢をとる。

 

―――――その瞬間、加奈子がグッと身体を沈め…姿が消える!

 

 

「消えた!?」

 

 

急激な加速とその凄まじい速さに、綾乃の目には加奈子が消えたように見えたのだ。

 

その速さスピードで一気にガノッサとの間合いをつめた加奈子は袈裟懸けに斬りかかる!

剣速と疾走―――――凄まじい速さを重ねた攻撃は、まさに神速の一撃と云える。

 

だが!

 

 

「甘いわ!」

 

 

加奈子のスピードをもってしてもガノッサの動体視力を超えることが叶わず、紙一重で避けられた!

 

こうした突進系の攻撃は避けられたが最後、相手に隙だらけの背後を見せることとなる。

加奈子もその例に違わず、急に止まれるわけもなくガノッサに隙だらけの背後を見せる。

 

 

「もらっ―――――ッ!?」

 

 

隙だらけの加奈子の背中めがけて鉤爪を繰り出すガノッサ。

だが、いつの間にか加奈子の持つ水昂覇の柄尻から形成された二本目の水の刃・・・・・・・が、

背中越しにガノッサに向かって突き出される!

 

予想外の攻撃方と剣を振るった際の勢いを利用した突きに、

さすがのガノッサも完璧には避けきれず、脇腹を浅く斬られる!

 

だが、あまりにも浅すぎる。

満月の夜の状態とまったく同じフルムーン・ティアを持つ人狼にとって、その程度の傷など一瞬で完治してしまう。

 

その場にいる誰もがそう考えた―――――直後!

 

 

ボシュッ!!

 

 

弾けるような音と共にガノッサの脇腹―――――傷ついた周辺―――――が大きく抉れる!

水の刃に篭められた浦島に流れる血の力『破魔の力』がガノッサの肉体と妖気を破壊したのだ!

 

 

「グオォォ……」

 

 

初めて味わう破魔の力による魂を削られるような痛みにガノッサが怯む。

振り返ってその様子を確認した加奈子が、一気に片をつけようと追い打ちをかける―――――だが!

 

 

「なめるな小娘!!」

 

 

吠え猛りながら加奈子に鉤爪を繰り出すガノッサ!

水昂覇を振るう加奈子と鉤爪を繰り出すガノッサが交差し、力負けした加奈子の水昂覇が高く弾き飛ばされた!!

 

 

「やばい!!」

 

 

唯一の武器を手放した加奈子の状況に、綾乃が思わず叫ぶ。

 

(間に合わない!!)

 

加奈子の”水昂覇”、綾乃の炎雷覇といった神器は、普通の武器と違って持ち主の体の中に宿っている。

ゆえに、持ち主が望めばいかに離れていようとも、何時でも自らの内に戻すことができる。

 

だが、一旦内に戻し、再び具現するにはやはり若干タイム・ラグが生じる。

その若干のタイム・ラグが、この状況では致命的なのだ。

ガノッサの驚異的な速さスピードをもってすれば、その短時間で数回は攻撃が可能。

 

同じ神器を持つ綾乃だからこそ、今の加奈子の状況がいかに危険か、誰よりも理解していた。

 

 

「和麻、援護フォロー!!」

 

 

相棒和麻に向かって綾乃は怒鳴り、ガノッサに向かって走る!

だが、距離がありすぎる。一秒―――――いや、数瞬ほど間に合わない!!

 

 

「今度こそもらった!」

 

 

ガノッサの手刀が加奈子の顔面めがけて突き出される!

頭を貫き、一撃で加奈子を仕留めるつもりなのだろう。

 

ガノッサの手刀が空を貫き、加奈子の眉間に向かって一直線に伸びる!

由香里と七瀬、そして綾乃は最悪の展開を想像して顔を青ざめさせる。

 

しかし、加奈子はスッと身体を横にずらし、逆に身体を前に傾け―――――

 

 

ズドンッ!!

 

 

「ガァッ!」

 

 

突如鳴り響いた重い激突音と共に、ガノッサが大きく仰け反る。

そして、髪を少々失いながらも一歩踏みだし、蒼銀に光る右手を突き出した体勢の加奈子。

 

あまりの出来事に、綾乃は二の足を踏み、その場に立ち止まってしまう。

 

 

「―――――浦島流 柔術 〈竜牙〉」

 

 

呟くように技の名を言う加奈子。

手の平に氣を集中して相手を攻撃する、浦島流 柔術の中で基本中の基本の技。

だが、今はカウンターにより、その威力は数倍…ガノッサの力が強い分、十数倍にも高まっている!

 

そして加奈子は仰け反っているガノッサに対し、すかさず腹部に向かって左の掌底を叩き込む。

 

 

「―――――〈竜牙・二掌〉―――――」

「舐めるなぁぁッ!!」

 

重なる追撃に崩れ落ちそうになるガノッサだが、吠えながら踏み堪えて加奈子に拳を繰り出す!

 

すると加奈子はその攻撃を緩やかな清流の如く、それでいて素早い動きで最小限で回避し、

逆に吸い込まれるように間合いをつめ、ガノッサの懐に潜り込む。

その一連の回避行動は、先程の手刀をかわした時とまったく同じだった。

 

 

「ぬっ!」

 

懐に入り込んだ加奈子を見て、慌てて間合いを空けようとするガノッサだが、

 

「遅い…」

 

時既に遅く、再び繰り出された加奈子の右の掌底がガノッサの顎をかち上げる!

 

 

「―――――ッ!!」

「―――――〈竜牙・三掌〉―――――」

 

 

音にならない声を上げるガノッサと、静かに呟く加奈子。

そして左足でさらに一歩踏み込むと同時に、両手をガノッサの胸元に叩き込む!

 

 

「竜牙・四掌―――――双竜牙!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

加奈子の両の掌に篭められた氣が爆発、ガノッサは堪えることもかなわず弾き飛ばされる!!

だが加奈子の攻撃はまだ終わらない。

 

 

「 浦島流 柔術 〈龍尾刃〉 」

 

 

踏み込んだ左足を軸に身体を回転させ、氣を集束させた右足で後ろ回し蹴りを繰り出す。

そして虚空に描かれた蒼銀の軌跡が氣の刃となり、ガノッサに向かって追撃し、さらに幾つもの裂傷を負わせる!

 

 

「………凄い」

 

 

目の前で起きたことが信じられず、呆然とする綾乃。

武器も使わず、身体能力を圧倒する人狼ワーウルフを吹き飛ばしたのだ。

それが自分と同じぐらいの歳で、体格もほぼ同じ少女がやれば、その驚きは当然とも云えるだろう。

 

だが今は戦闘中―――――当然は当然ではない状況だ。

 

 

「ボサッとするな!」

 

 

という和麻の怒鳴り声に綾乃は我に返ると、即座に炎雷覇を握りなおし、ガノッサに向かって突進する!

それと同時に、和麻が風の刃を天井に向かって放つ。

その風の刃は天井すれすれまで上昇すると大きく弧を描きながらガノッサに向かって降りかかる!

 

 

「人間風情がァ……」

 

 

唸り声を上げながら立ち上がるガノッサ。右の拳に妖気を集束させて風の刃を迎撃しようとする。

しかし、和麻の”必殺”の意志を篭めた風の刃は砕かれることなく、

逆に集束した妖気もろとも、ガノッサの右腕を根元から切り落とした!!

 

 

「グゥゥッ…おのれぇ…おのれぇ!」

 

 

血が噴き出る切断面を左腕で押さえながら怨嗟の言葉を吐くガノッサ。

その言葉を殺気とは裏腹に、ガノッサは冷静に状況を判断し、己の絶対的な不利を悟る。

 

 

(このままでは負けは確実。今は一旦退き、傷を治すのが先決だ)

 

 

切断された腕はともかく、一向に塞がろうとしない脇腹の傷を忌々しく重うガノッサ。

その他の傷は急速に再生しているのに対し、その傷だけが遅々として治らない。

 

 

(奴等は強い…だが、一対一では確実に勝てる。後日、奴等が一人の時を狙い狩ればいい。

匂いは覚えた。例え一キロ以上離れていようとも追跡は可能。今はともかく撤退し、次の機会を待つ)

 

 

一瞬でそう判断したガノッサは身を翻し、壁に向かって疾走する。

現れた時と同じく、今度は壁をぶち破って逃走する気なのだろう。

 

ガノッサは左肩を前にし、壁に体当たりをして破ろうとする―――――その直前、

横手から放たれた黄金きん色の炎の奔流がガノッサに襲いかかり、吹き飛ばす!

 

 

「まさかここまでやっておいて、逃げられるとでも思ってんじゃないでしょうね!」

 

 

炎に焼かれ、その衝撃により部屋の中央まで吹き飛ばされ、床に倒れるガノッサ。

そして床の上を疾走する綾乃。炎雷覇が煌々と燃えさかる黄金きんの炎を纏っている!

 

 

「ぐっ―――――これしきのことで」

 

 

避けるタイミングを逸したことを悟ったガノッサは、残った左手に妖気を集束させる。

至近距離の妖気砲で綾乃を吹き飛ばすつもりだ!

 

 

「砕け散れッ!!」

「あんたがねっ!」

 

 

放たれた妖気砲を炎雷覇で受け止め―――――両断する綾乃!!

そしてそのまま左腕を二つに裂き、浄化の炎で焼滅させる!

 

 

 

「グゥッ―――――粋がっても腕一本、我の命まではとらせぬ!」

 

 

両腕を無くしても尚、さほど変わらぬスピードで逃走しようとするガノッサ。

その捨て台詞はなおも残る自信の現れか、それとも負け惜しみか。

 

そんな『負け犬の遠吠えガノッサの捨て台詞』に対し、綾乃は薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

「それはそうでしょ。そうなるようにわざと手を抜いたんだからね」

「なっ!?」

 

 

「今度は譲るわ」

「感謝します」

 

 

剣から槍に変化させた水昂覇を持った加奈子がガノッサに向かって突進する!

神凪の浄化の炎によるダメージが抜けていないため回避できず、

銀色の水の刃はガノッサの胸元―――――心臓がある辺りに深く突き刺さった!

 

―――――そして、

 

 

「砕ッ!!」

 

 

加奈子の裂帛の気合いと共に、水昂覇の刃―――――破魔の力を持つ水の精霊が力を解放し、

ガノッサの肉体を内部から粉砕、破壊して少量の塵にした。

 

そして、後に残ったガノッサの頭部と、飲み込まれていた人狼族の宝フルムーン・ティアが床に転げ落ちる。

 

 

「終わりましたね……」

 

 

ふぅ…と加奈子は一息つくと、構えを解き、刃の無くなった水昂覇を下ろす。

 

その瞬間!

首だけとなったガノッサの瞳がギラリと光る!

 

 

「せめて貴様だけでも道連れだ!!」

 

 

執念か、ガノッサの首が床から跳ね上がり、加奈子の首筋に長い牙を埋め込む!!

 

 

「―――――ッ!!」

「「きゃぁぁぁぁあああっ!!」」

 

 

噛みつかれた加奈子を見て由香里と七瀬が悲鳴を上げる。

そして、してやったと云わんばかりに、噛みついたまま嗤うガノッサ。

 

だがその表情はすぐに強張った!

それもそうだろう、加奈子の身体が水となり、自分を包み込んでしまったのだから!!

 

 

「往生際が悪いですね……」

 

 

ガノッサはその声の元を目で追うと、そこには噛みついたと思っていた加奈子が無傷の状態で立っていた。

その瞳に、果てしなく冷たい光を宿しながら、水に包まれた自分に右の掌を向けている。

 

 

「消えなさい。その魂もろとも、この世から跡形もなく……」

 

 

そう言うと加奈子は右の掌を握りしめる。

それに応じ、ガノッサを包んでいた水も収縮し、凄まじい圧力で頭部を押し潰し、今度こそ跡形もなく消し去った。

 

 

 

 

 

 

―――――その2へ―――――

 

 

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