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ラブひな IF           〈白夜の降魔〉

 

 

 

弐の外灯・二幕 「真夜中の来訪者」

 

 

 

「―――――とまあ、吸血鬼ヴァンパイアと戦う前はこんな感じだったな」

 

 

丁度良い区切りなのか、一旦話を止める景太郎。

それまでジッと聞いていた皆は、そこで一斉に息を吐いた。

話はまだ始まったばかりだが、それでも興味を強く惹かれるところも、

疑問に思う箇所が幾つもあったので、なる達にとっては丁度良かった。

 

 

「確認するけどさ、大体四年前なのよね」

「ああ」

「その四年で…こんなになっちゃったのよね」

「どういう意味だ、成瀬川」

「え〜っと…昔の方が、クールっぽくて格好いいかも?」

「あれはクールじゃなくて、心に今ほど余裕がなかっただけだ」

「そうなの。じゃぁただ単に根暗なだけ?」

「根暗というな。根暗と……」

 

 

確かに根暗かもな…と、苦笑しつつ心の中で素直に同意した。

あの頃を知る友人、白井と灰谷もそろって根暗だったと言っているから、否定のしようもない。

 

 

「ところで先輩。話の途中にあった『精霊獣』ってなんなんですか?」

 

 

『精霊』と云う言葉が興味を引いたのだろう、しのぶがそう訪ねてくる。

景太郎も精霊術師だから、一層興味を引いたのだろう。

 

 

「精霊獣…か。専門的に言っても解りづらいだろうし、どう言えばいいのかな……

集めた精霊を固めて、擬似的な使い魔を作る技術…って言えばいいのかな?

あ、使い魔と言うよりも、式神…に近いな。こういった感じに」

 

 

懐から符を取り出し、指で弾いて宙に投げる景太郎。

すると、符はポンッ! という音と煙を発し、一匹の鳩へと姿を変えた。

 

 

『おおっ!?』

 

 

いきなり出てきた鳩に驚く皆を余所に、当の鳩はパタパタと飛んだ後、なぜかしのぶの頭の上にとまった。

―――――その直後!

 

カプッ!

 

鳩にいきなり噛み付くスゥ!

だが、鳩はまたまたポンッと云う音と共に符に戻ってしまい、スゥは残った符を残念そうに眺めていた……

 

 

「ケ〜タロ〜」

 

「それは偽物。食べようとしても無駄だよ。(って言うか、いきなり食べようとするなんて予想外だったよ…)

まぁ、今みたいな感じのヤツを特殊に…そして更に強力に発展させたヤツが精霊獣かな。

今のは東洋魔術だけど、あっちは西洋魔術主体だから、同じ扱いにするのはおかしいんだけどね…

もう少し詳しく説明するなら、集めた精霊で身体を精製、魔術で作った仮想人格で操作するんだ。

それによって一つの生命体と仮定し、術者が簡単な命令を与えれば、決められた通りに動いてくれる。

奴を倒せ! とか、足止めしろ! とかね」

 

「便利やな〜、自分で戦わんでええやんか」

「キツネさん、それじゃ意味がないんですよ。

この精霊獣の利点は、術者が本来以上の力が使える事なんですから」

 

「どういうこっちゃ?」

 

「精霊獣…仮想人格が、身体を構成する精霊の制御の何割か負担してくれるんですよ。

例えば、自分が扱える精霊の数が10と仮定します。

もちろん、それが限界だから術者はどう頑張っても10の精霊しか使えません」

 

「そらそうやろな」

 

「それを解決する方法の一つが『精霊獣』なんです。

術者が8の精霊を使って精霊獣を作りますよね。

その場合、術者本人の負担は5か6…精霊獣自体を維持することしか負担せず、

そして、残りの余裕で自分自身が術が使えるんです。

つまり、精霊獣自体の『8』と自分が使える『5』で計13。本来より3も多く使えるわけです」

 

「ほ〜……」

「まぁ、今のは概略で、本当はもっと複雑で小難しいんですけど…もっと説明しましょうか?」

「ほ〜…あ、もうええで。頭がゴチャゴチャしてきた」

 

 

難しい話は結構―――――という風に酒を飲むキツネ。

数字云々が出た時点で考えるのを放棄していたようなので、景太郎としては苦笑するしかない。

 

―――――と、その時。

 

 

「なぁなぁケ〜タロ〜」

「なんだい? スゥちゃん」

 

 

いきなり背後から抱きつくスゥに、些かも取り乱さず対応する景太郎。

その瞬間、キツネを除いた皆の眼光がやや鋭くなったのは…まぁ、ご愛敬だろう。

 

 

「さっきの話な。仮想人格なんてもん使ったら、それが制御してる分の精霊は術者が使えんのやないんか?」

「なかなか鋭いね、さすがスゥちゃん。その通りだよ。

その身体を構成する精霊を制御しているのは仮想人格。術者が直接使うことはもうできない。

故に、術者は精霊獣に命令し、精霊獣は命令されたとおりに動くしかない。

だけど、その際にやはり多少のタイムラグができるし、細かい指示を出すことができない。

だから、大方は精霊獣を前線に出し、自分が後方支援に徹するのが基本になるね」

 

「ふ〜ん…なんか凄く面倒ね」

 

 

思わず口をはさむ成瀬川。

いろいろ考えるよりも先に動く(手が出る)成瀬川らしいと云えばらしい意見だ。

 

 

「それは仕方がないさ。そうなることを覚悟で汎用性を捨て、本来の力量以上の精霊の数を確保したんだからな。

そう云う思想から生まれた術式ものだからな。故に特定された条件下においては強力だ。

集団…それも密集した妖魔の群に突貫させたり…な。自身は遠くから援護すればいいだけだ。

安全圏から最大の効果を得ることができる。使い方次第で決して馬鹿にできる存在ものじゃない」

 

 

精霊獣は精霊魔術と儀式魔術の融合によって誕生した技術。

すでにそれは魔導技術の一つではなく、『魔術兵器』…技ではなく兵器。

兵器とは戦闘に用いるための存在なのだ。そう言った意味では景太郎の言う通り強力な存在だった。

 

 

「へ〜……あんたがそう言うんなら、そうなんでしょうね」

 

 

とりあえず納得する成瀬川。

特につっこむことでもないし、一般人の自分が深く関わることでもない。

餅は餅屋…専門事は専門家に任せるに限る。

 

 

「それなら、先輩もその『精霊獣』を持っているんですか?」

「いや、それはないだろう」

 

 

しのぶの問いに答えた素子に、一同の視線が向く。

 

 

「日本では『精霊獣』を使う者は居ないはずだ。高位の精霊術師になればなるほどな」

「え? 何でですか?」

 

「神凪も言ったように、『精霊獣』を持てば力は強くなるが…代わりに汎用性を失う。

神凪を見れば解るように、高位の術者ほど術が多彩です。日本ではそれが基準となっているらしく…

汎用性を捨てて力のみに固執する精霊獣と云う技術を、『弱者のわざ』として見ているんです。

元々、精霊獣というのは足りない力を補うための技術らしいですから…余計に……」

 

 

下っ端と云えどもさすがは神鳴流の戦士。それなりに知識を叩き込まれているらしく、説明にも淀みはない。

しかし、その説明に納得するかまでは別問題だった。

 

 

「はぁ? そんなん別にええやんか。みんながみんな強いわけやあらへんやろうに。

そんなら、弱い連中は弱いままで、ずっと上を見上げとけっちゅうんかいな。なぁ景太郎…景太郎?」

 

 

同意を求めるキツネに、微妙な苦笑を返す景太郎。

すまなさそう…だが、どことなく嬉しい。と云う表現がピッタリくる顔だ。

 

 

「どないしたんや? 景太郎」

「いえ…その…実は、精霊獣がそんなイメージを持たれているのは神凪とか浦島の所為なんです」

「なんやて?」

 

 

すでに答えを知っていたのだろう素子を除き、キツネ達が驚いたように目を剥いた。

そんな皆の視線に軽く嘆息した後、景太郎は事情を説明し始める…

 

 

「日本には精霊術師のトップクラスが多数います。炎術の神凪、地術の石蕗、水術の浦島とかですね…

彼らを初めとする精霊術師は…人格はともかく素質は優秀で、何度も言いますが世界でもトップクラスです。

キツネさん。精霊術師…精霊を使う者にどういったイメージを持っています?」

「え? そら、精霊を使って色んな事を…炎とか水とか扱って色んな事できる奴やろ?」

「そうですね。確かに色々な事ができますね…たとえば、こんな事とか」

 

 

景太郎の持つ湯飲みに包むように白銀ぎんの炎が発生し、一瞬で消え去る。

すると、冷え切っていた中身…茶が沸騰し、湯気を立て始めた。

もちろんだが、湯飲みには一切変化はない。茶のみに作用し、沸騰させたらしい。

 

 

「まぁ、これは炎術師なら誰でも出きることですからね、説明にはなりませんけど…

もし、これができずに戦闘しかできない者がいれば…どう思いますか?」

 

「それは…得手不得手ってヤツじゃないの?」

 

「そうだな。成瀬川の言うとおりだけど…だが、勉強ならどうだ?

五科目の中、たとえば数学しかできない者を…他は軒並み平均以下だったらどうする?

一生懸命頑張っても、数学以外はまったくできない者を……」

 

「それは……」

 

「得手不得手なんて事は言われない…それだけしかできないと蔑む奴がいる。

『頭の良い=全てに優秀』と云う図式通り、数学が天才でも他がダメならそいつは”優秀”じゃない。

それと一緒で、秀でた精霊術師は多才であることを誇りとするんだ。

一芸に秀でている者を、一芸しか秀でていないと見下しているんだ。その真価に気付こうともせずもせずに……」

 

 

神凪や浦島みたいに、生来から扱える精霊の量が多い連中……

そういった者にとって、精霊術とは手足の延長線であり万能の道具でもある。

だから、万能を捨て『手段』を限定してしまう『精霊獣』と云う術式は格下の…『弱者のわざ』でしかなかった。

 

そんな風評が日本各地に広まってしまった為、今では日本で『精霊獣』を使役、研究する者はほぼ皆無となった。

そんな事をすれば、『自分は非力な術者です』と、公言しているようなものとなってしまうからだ。

 

無論、使える者はいるかもしれない。

生憎、景太郎は『精霊獣』自体は持ってないが、陰陽術との組み合わせで似たような術をもっている。

他にも探せばいるだろうが…その連中は表に出すことはほとんど無いだろう。

少なくとも、この日本で先程の風評が無くならない限りは……

 

 

「術師やなんや言ってもやっぱ人間なんやな…どこでも似たような考え方しよるで」

「強い力を持っていても、根っ子は人間ですよ」

 

 

キツネの考えに同意する景太郎。

同時に、世の中にはあらゆる意味で人を超えた者、捨てた者もいることを、心の中だけでつけ足した。

 

 

「―――――まぁ、説明はそれぐらいにしてさ。そろそろ話の続きを聞かせてよ」

「ああ。解った……」

 

 

成瀬川の催促に頷くと、景太郎は話の続きを再び語り始めた……

 

 

 

 

 


 

 

 

「なぜ、栄えあるマクドナルドの一員である私が外に出さなければならないのだ!」

 

 

深夜零時―――――その約三十分前。

マクシミリアンと景太郎の二人が、屋敷の前庭の中央にて篝火を焚きながら佇んでいた。

景太郎は相変わらず無表情のまま、マクシミリアンは不機嫌な顔で屋敷を睨んでいた。

 

 

「何が『貴様達の炎で屋敷を燃やされてはたまらない、外で迎撃する方に回って欲しい』だ!

娘が大事なら別荘の一つや二つぐらい捨てる覚悟ぐらい見せればいいものを…そうは思わないかね?」

 

「そうですね……」

 

 

愚痴の同意を求めるマクシミリアンに、言葉少なくおざなりに返事をする景太郎。

マクシミリアンは、言葉通り『炎術師』であるという理由で外に出されたことに憤慨しているのだ。

攻撃力が高い炎術師が襲来する吸血鬼ヴァンパイアを迎撃、可能であれば倒す。

無理であれば、手傷を負わせて弱めろ…と云うのが、ジョーンズ氏の意見だった。

もっとも、それは建て前で、先に言ったとおり家を燃やされるのが困るというのが本音にしか聞こえなかった…

 

ピートがなんとかフォローしようとしてくれたが、ジョーンズの、

『ならば、二人が壊した分の弁償は君がしてくれるのだろうな』

と云う言葉に、あえなくK・Oされてしまった。

神に仕える身分でもやはり『天下の周り者お金』には弱かった……情けないと言う無かれ。

 

ちなみに、ここら一帯はジョーンズ氏が所有している土地で、数キロに渡って家などはなく、屋敷の外は真っ暗。

しかし、屋敷の庭には随所に電灯が設置されている上、満月の光に明るく照らされているため、

篝火の必要はないように思えるが、これは炎の精霊を喚び出しやすいようにマクシミリアンが準備したのだ。

目の前で思いっきり火を焚いて嫌がらせをしている…ようにも見えなくないが、気にしてはダメだ。

 

それでもまだまだ怒りが鎮まらないのだろうか、大きな声で文句を言っているマクシミリアンに、

景太郎が正門の方を見据えたまま、事も無げに吐き捨てる。

 

 

「いいじゃないですか。足手まといがいない分、こちらとしてはやりやすいですよ」

 

「フッ…それもそうだな。足手まといが居たのでは、こちらも充分に実力を発揮できんな。

良いことを言うではないか、景太郎君。ますます君を気に入ったよ」

 

 

ハッハッハッハッ―――――と、上機嫌に笑うマクシミリアン。

愚痴を長々と聞くよりはましと適当に言ってみた言葉だが、思ったよりも効果があったようだ。

 

 

「………もうすぐ零時だな」

「ええ……」

 

 

マクシミリアンが高価な黄金きんの腕時計を見ながら、刻限までの時間を確認する。

景太郎も懐から銀色の懐中時計を取り出し、自らの目で時間を確認した。

 

 

(後三十秒……二十……十……五…四…三…二…一)

 

 

―――――零時ジャスト―――――

 

 

 

「―――――ッ! 妖気だ!」

 

 

突如発生した妖気に、マクシミリアンは叫びながら発生源の方を見る。

発生源は屋敷の外―――――正門のすぐ前だ!

 

正門からかなり離れており、景太郎達の居る場所からは妖魔達は見えないが、

その妖気の量、そして未だに増え続けている事は炎術師の鈍い感覚でも感じ取っていた。

 

 

「むぅ…これは……」

 

 

発生した妖気の大きさに唸るマクシミリアン。

精霊術師としての防衛本能が反射的に働き、炎の精霊に干渉し始めていた。

 

 

「なんという妖気だ…かなりの大者なのか?」

 

「いえ。妖気の範囲が広すぎるし、質も低い…下級妖魔が大量に召喚された出てきたんでしょう。

強いと感じているのは、妖魔が集まっているから錯覚しているだけです」

 

 

妖気の発生源の方向を見ながら淡々と語る景太郎。その表情は相も変わらず無表情だ。

この妖気の大量発生を感じているのは確か…だが、それでも景太郎が平然としている様子を、

マクシミリアンは信じられないものを見ているような目で見ていた。

 

 

「景太郎君…君はこの妖気を感じてもなんとも思わないのか!?」

 

「確かに、妖気の総量は凄いかもしれませんけどね…所詮は下級かそれ未満の妖魔の集まり。

その程度のことで萎縮して実力が出せないようなら、この先生きてはいけませんよ」

 

「…………」

 

 

ただ真実を語るかのような景太郎のこの言葉に、マクシミリアンは萎縮していた自分を恥じた。

年下の…それも自分の娘と同じくらいの子供が立派に退魔士をやっているのだ。

これ以上、情けない姿をこの少年に晒す事は、自分の誇りプライドが許さない。

また、それを許す言葉など、マクシミリアンの辞書にはない!

 

 

「やはり、君が気に入ったよ。どうかね、私の娘の婿にならんかね? 君なら大歓迎だ」

「考えておきます……」

 

 

マクシミリアンの勢いから、断ってもしつこい事を感じた景太郎はおざなりな言葉を返した。

そんな景太郎にマクシミリアンはやや不満げな顔をしたが、まだまだ妖気が高まる状況下に置いて、

そんな悠長なことをしている場合ではないと考え、気持ちを切り替えた。

 

 

「どこまで高まるのかね、この妖気は……」

「そろそろピークじゃないですか。増え方が落ちてきたみたいですよ」

「そのようだ―――――ッ!」

 

 

マクシミリアンが言葉を言い終える前に、正門が周辺の外壁ごと粉々に吹き飛ぶ!

朦々とたちこめる粉塵…そして、その中を突っ切って無数の妖魔が屋敷に向かって殺到する。

そしてその後から、豪奢な漆黒の馬車が悠然と屋敷の敷地へと入り込んだ。

 

その時!

 

 

「今だ!!」

「かかれぇ!!」

「「「「おおっ!!」」」」

 

 

屋敷の影や茂み、離れの小屋などから複数の人間が現れ、侵入してきた妖魔に突進して行く!

その数は約百人。剣や銃、槍を持った者達を始め、魔術師風など様々だ。

 

 

「いきなり何なんだ? こいつらは…」

 

 

外に出た当初から視線を感じ、気配全て把握していた。

その視線に”警戒”はあっても敵意は少なく、実力的にも問題無しと放置していたのだが…

まさか、退魔本番になって決起するとは思ってもなかった。

 

驚いた景太郎の顔に、マクシミリアンが苦笑に近い微笑を浮かべる。

やっと動いた景太郎の表情が年相応な顔で安心したのと、そんな自分に対しての笑みだ。

 

 

「あぁ、そう言えば君は遅刻したから知らなかったね。

ジョーンズ氏は私達を雇う以外にも、くだん吸血鬼ヴァンパイアに様々なギルドを通して多額の懸賞金をかけたのだよ。

彼らはそれを狙って集まったハンターだ。かく言う私も忘れていたよ。もう一つの足手まとい達のことをね」

 

 

妖魔と闘いを始める者達を見ながらそう言うマクシミリアン。

その言葉に景太郎は眉を顰めるが、否定はできなかった。

 

マクシミリアンはあまり考えずに『足手まとい』と言ったのだろうが、それは状況を判断しても正しい。

彼らもこの世界で生き、生活している以上、実力はそれなりにあるのだろうが、

高額の報奨金に目が眩み、お互いの足を引っ張り合い、次々に妖魔達に殺されてゆく。

何割かは協力、連携して戦うが、あまりにも多すぎる妖魔に成す統べなく、

みるみるうちに劣勢に追い込まれ、本命が居るであろう馬車には誰一人として近づくことさえできていない。

 

 

「やれやれ…露払いもできないとは。やはり足手まといは足手まといか。役にもたたない」

 

 

次々に死んでゆくハンター達をみて侮蔑するマクシミリアンに、景太郎がほんの微かに表情を歪める。

半ば自業自得とはいえ、人が死んでゆく様を侮蔑するマクシミリアンに嫌悪を感じたのだ。

 

 

「まぁいいだろう。ならば、選ばれた我らが妖魔達を駆逐してくれよう! 絶対的な力でな!!」

 

 

側にある篝火が盛大に燃え上がり、それを触媒に炎の精霊が大量に召喚される。

その呼ばれた大量の炎の精霊は集束し、三つの光球となって出現する。

 

 

「現れ出よ、我が守護精獣ガーディアン『フレイア』!!

 

 

マクシミリアンが高らかに叫ぶと同時に三つの光球が一つとなり、巨大な人型へと変わる!

 

そして出現したのは大きな女性型の精霊獣。北欧神話の女神の名を冠するに相応しい美しき容姿だ。

豪華な杖を悠然と持ち、前方に群がる有象無象の妖魔達を見据えている。

そう、まるで神が卑しき存在を睥睨するかのように……

 

 

「フレイア、裁きの矢ジャッジメント・アローを―――――」

 

 

マクシミリアンの命令に、守護精獣ガーディアン・フレイアが持っていた杖が弓へと変わり。

そしてフレイアが弦を引くと同時に、煌々と光る赤い矢が発生する!

 

 

「―――――放てショットッ!!」

 

 

放たれし赤き矢は虚空を貫き、妖魔が一番密集している地点に突き刺さる!

そして、赤き矢は着弾と当時に凝縮されたエネルギーを解放し、周辺を…否、一帯の妖魔と大地を消滅させる!

 

その一撃は凄まじく、妖魔の約三分の一が消滅する。

だが残りはまだまだ多く、しかも他の密集地帯は妖魔とハンターが入り乱れてて戦っている状況だった。

 

 

「死にたくなければ退け、凡人共! フレイア、第二弾セカンド・ショットだ!!」

 

 

再び赤い矢をつがえるフレイアに、ハンター達は我先にと逃げだし、

妖魔達はフレイア…それを操る術者を厄介だと判断し、マクシミリアンに向かって殺到する!

 

そんな妖魔達にフレイアは矢を放つが、バラバラに迫る妖魔達の三分の一程しか減らせない。

こうなれば大きな体、時間がかかり広範囲すぎる攻撃は逆に仇となってしまい、

妖魔達はフレイアの端、または足下を通り過ぎ、あっさりと通り過ぎてしまう。

 

(……マクドナルドの精霊獣もこんなものか)

 

景太郎は精霊獣の評価を下すと、妖魔達に備えるために炎の精霊に呼びかける。

が、それよりも先にマクシミリアンの行動の方が早かった。

彼は迫りくる妖魔達に対して不敵な笑みを見せると、フレイアに向かって手を掲げる!

 

 

「フッ―――――現れよ、運命の三女神、ウルズ、スクルド、ヴェルザンディー!!」

 

 

フレイアの造形が崩れた次の瞬間、今度は半分以下の…それでも二メートル以上…の三人の女騎士が現れる。

騎士…とあるが、どちらかというとヴァルキリーを元にした造形だ。

名前も、三体に分かれるから運命の三女神から名を取ったにすぎないのだろう。

 

 

「妖魔を駆逐せよ!」

 

 

運命の三女神の名を冠した精霊獣は各々の武器を構え、猛然と妖魔を倒し始める。

ウルズは戦斧、ヴェルザンディーが剣、スクルドがハルヴァードを用いて前線で戦い、

マクシミリアンが炎術で後方からの支援を行い、妖魔を凄まじい速さで駆逐する。

その見事な四重奏を前に、妖魔は成す統べなく滅び去る以外に道はなかった!!

 

 

「続け! 一気に押し返すんだ!!」

 

 

そんなマクシミリアンの闘いを見たハンター達が、再度妖魔達に立ち向かうが、

今残っているのはマクシミリアンの攻撃に耐えるか、逃れることのできる妖魔のみ。

最初の雑魚妖魔に圧されていた者達が勝てる道理はなく、あっさりと劣勢に追い込まれた。

だが、ハンター達も残っているのはそれなりの実力者達。

最初のように一方的ではなく、連携などを取り協力し、そうやすやすと殺されるようなことはなかった。

 

 

(状況は五分と五分。いや、マクシミリアンさんだけが圧しているから、少しこちらが優勢か。

それにしても…この状況下でなんの反応もみせないとは。完全に籠城するつもりだな)

 

 

視線を闘いから屋敷に移す景太郎。妖魔達が出現すると同時に、屋敷は強力な結界に覆われたのだ。

金にあかせて魔導具でも買ったのか、そこそこ強力な結界だ。

悪霊や雑魚、下手をすれば下級でも弱い妖魔は破れないかもしれない。

それはつまり、自分達は朝まで籠城し、外にいる者達を捨て駒にしたと云うこと…

ピートやグリニデ達は、万が一の保険というわけだ。

 

結界により遮断されたのか、邸内の気配が感じられないが、直前まで感じたのはジョーンズ親子にピート達四人。

他には数名のメイドらしき普通の気配があっただけなので、ほぼ間違いはないだろう。

 

 

(まぁ、どうでもいいことだ。俺は依頼どおり妖魔を滅するのみ……)

 

 

そんな時―――――最初から突っ立ったままの景太郎に向かって妖魔が襲いかかる!

ただ立ったままの景太郎を絶好の標的と見て襲いかかってきたのだ。

 

馬鹿な妖魔だ…遠い空の下にいる彼の義父が見れば、間違いなくそう言っただろう。

受ける印象は無力な『兎』だが、その兎は気性が荒く、爪と牙は恐ろしき猛毒をもっているのだ!

 

 

「雑魚が……」

 

 

ある程度近寄って跳びかかってくる妖魔を一瞥する景太郎。

すると一瞬で白銀ギン色となった篝火の炎が触手のように伸び、妖魔を消滅させる!

そして伸びた炎は二股に分かれると、景太郎を中心に二メートルの輪となった。

二つのリングは四十五度の対角で交差し、まるで景太郎を護る絶対防衛圏のようにすら見える。

 

それにかまわず十匹以上の妖魔が一斉に襲いかかってくるが、炎のリングに触れた瞬間全て蒸発する。

いや、中には触れる前に余波だけで消滅する妖魔さえいた程だ。

並の炎ではこうはいかない…この世で景太郎のみ扱える、破魔の炎だからこその現象といえるだろう。

 

その炎が驚異と感じたのか、それとも炎から発せられる破魔の力を感じているのか、

妖魔達はある一定の距離を間合いをとって景太郎の様子を窺っている。

隙を見つけて襲いかかろうとしているのだろうが、そんな隙など見せる景太郎ではない。

 

 

「ふん…消えろ」

 

 

そう呟いた直後、二条のリングは爆発的に広がり、周囲全てにいた妖魔を消滅させてすぐに元に戻る!

それで丁度最後だったのだろう。邸内にいる妖魔は全て排除され、残っているのは黒塗りの馬車のみだった。

 

 

「さて…そろそろフィナーレといこうか。フレイア!!」

 

 

マクシミリアンの命令に、再び三匹の精霊獣が融合し、元の一体の巨大な守護精獣ガーディアンフレイアとなる!

そしてフレイアは最初と同じく杖を弓へと変え、矢をつがえて馬車に向かって構えた。

 

 

―――――その次の瞬間!!

 

 

ドンッ!! ガシャーーーン!!

 

 

銃声と共に硝子の砕ける音が響き渡る!

その発生源に皆が目を向けると、そこは屋敷の二階…つい一時間前まで景太郎達が居た部屋からだった!

次いで、割れた窓から『シャロンを放せ、化け物!!』というジョーンズ氏らしき怒声も響く。

 

 

「なにっ!? もしや吸血鬼ヴァンパイアがすでに侵入したというのか!!」

「声からすると、その様ですね……」

 

 

マクシミリアンの言葉に同意する景太郎。だが、内心では些か納得していない。

最初から今まで馬車には注意していたが、何かが外に出た様子はない。

たとえ最初から外にいたとしても、氣を張っていた景太郎に気づかれず屋敷に近づくことは不可能だ。

 

とすれば……

 

 

「〈空間転移〉か?」

「〈空間転移テレポート〉だと!? そうか、それがあったか!!」

 

 

吸血鬼ヴァンパイアのような人を超えた存在には、転移など容易いことだ。

前兆などがあるため、ある種の備えや感知能力が高ければ気付けたかもしれないが、

離れていた景太郎には…しかも結界で遮られた屋敷の中でのことなど気付けるはずもない。

 

 

「こうしている場合ではない、行くぞ、景太郎君」

「その必要はないようです……」

「なに!?」

 

 

どういう意味かと問い返そうとした瞬間、壊れた窓が更に粉々に破壊され、そこから何かが文字通り飛び出した!

 

 

その何かとは言うまでもない―――――吸血鬼ヴァンパイアだ。

青白い肌に整った顔、黒いマントを羽織り、その腕の中にはシャロン嬢が抱き抱えられていた。

目を閉じグッタリとして微動だにしない様子から、おそらく気絶しているのだろう。

吸血鬼ヴァンパイアは室内を一瞥した後、下方にいる景太郎達を見てニヤッと笑った。

余興は楽しんでもらえたかな? といわんばかりに!

 

 

「その首、貰った!!」

 

 

ハンターの一人が持っていた大剣を大きく振りかぶりながら吸血鬼ヴァンパイアに飛びかかる!

腕に自信があるのか、それともシャロンを巻き込むのも覚悟の上なのか、その勢いに躊躇いは一切無い!

 

そのハンターに後れをとるまいと、他の者達も各々の武器を構えて続く―――――が!

その途中でハンター達はビデオの一時静止みたいにピタッと止まった。

 

―――――直後、静止したハンター達の肉体が前触れもなく爆ぜる!!

 

 

「虫けらが―――――千年早いわ」

 

 

文字通り『血の雨』が降りしきる中、軽い恍惚の笑みを浮かべてそう言う吸血鬼ヴァンパイア

そんな吸血鬼ヴァンパイアに―――――

 

 

「フレイア! ”断罪の矢”で奴を貫け!!」

 

 

守護精獣ガーディアンから放たれた赤い矢が迫る! 狙いは頭部!

シャロン嬢を巻き込まないよう、最初とは違う、ただ貫通するだけの矢だ。

篭められている精霊の数に変わりはない。それはつまり、あれだけの破壊力を凝縮した一撃だということだ!

 

それほどの矢であれば、いかに吸血鬼ヴァンパイアの頭部など貫くどころか木っ端微塵になる!

 

 

「ふん……精霊使いか」

 

 

なる―――――はずだった。

だが、吸血鬼ヴァンパイアが飛来する矢を睨むと、先のハンター達と同じく宙に静止した!

そして左手…シャロンを抱いていない方の手をかざすと、赤い矢は内包するエネルギー事消滅する!!

 

 

「人形遊びは趣味でないのでね…ご退場願おうか」

 

 

吸血鬼ヴァンパイアはそのままかざした手をフレイアに向けると、何かを握り潰すように掌を閉じた。

するとフレイアの造形が崩れ、中の精霊共々砕け散って消滅した!!

 

 

「ば、馬鹿な…私のフレイアが……」

 

 

最強の守護精獣ガーディアン・フレイアがいとも簡単に倒されたことに、マクシミリアンが愕然となる…

彼は、この〈フレイア〉を用いて何匹もの吸血鬼ヴァンパイアを倒してきたのだ。

中には苦戦した存在もいた…精霊獣を破壊されたことなど幾度もあった。

だが、内包する精霊が減っているとは云え、ここまで圧倒的に守護精獣ガーディアンフレイアを破壊されたのは初めてだった。

 

 

 

「さて…次は少年。君かね?」

「あたしで最後だ!!」

 

 

割れた窓から身を乗り出したエルザが両手に巨大な拳銃を構え、吸血鬼ヴァンパイアに向かって発砲する!

 

 

「くたばりやがれっ!!」

 

 

十数発もの凄まじい銃声が途切れることなく鳴り響く!!

その度に発するマズル・フラッシュが十字に輝いていることから、対妖魔用の特殊弾頭でも使っているのだろう。

 

だが、それが効果を及ぼすのは当たってこそ―――――

放たれた弾丸は吸血鬼ヴァンパイアに近づくにつれ急速に勢いを失い、五十センチ手前で完全に静止した!

 

 

「ゴミは持ち帰りたまえ。限りある資源は大切にな」

「エルザ、伏せろ!!」

 

 

グリニデがエルザの頭を掴んで強引に伏せさせるのと、静止した弾丸が返されたのがほぼ僅差!

返された弾丸は壁や調度品を壊しながら窓を完膚無きに破壊した。

 

 

「くそったれ!!」

「止めろ! 娘ごと殺す気か!!」

「邪魔すんじゃないよ!!」

 

 

再度銃を放とうとするのを止めるジョーンズと、それを振りほどこうとするエルザ。

この状況ではジョーンズが正しいと判断し、

グリニデ達も一緒に止めようとするが、エルザはそれすらも振りほどこうと暴れる。

 

 

「私を前にして悠長な…面白い人間達だな」

「まったくだ」

「ほほう。気があうでは―――――ッ!!」

 

 

景太郎の声にそちらを向くと、そこには正に眼前にまで迫った白銀ぎんの光のリングがあった!

だが、そのリングは吸血鬼ヴァンパイアに触れる直前で静止し、霧散する!

 

 

「無礼な人間モータルだな…話の途中で攻撃をするとは」

「闘いの場で悠長に話をしている不死人イモータルが悪い」

 

 

残る炎のリングを高速で回転させながらそう言い返す景太郎に、不愉快な顔になる吸血鬼ヴァンパイア

 

 

「気分を害したぞ。貴様は死ね!」

 

 

吸血鬼ヴァンパイアの眼がカッと見開くと同時に、景太郎に不可視の衝撃が襲いかかる!!

同時に、景太郎も炎のリングを一メートルほどに集束、チャクラムの様に投げる!

 

投げた炎のリングは不可視の力を燃やし吸血鬼ヴァンパイアに迫る!

―――――が、紙一重で避けられ、マントを大きく切り裂くだけに終わってしまった!

 

その際、抱き抱えていたシャロン嬢のギリギリを通り過ぎ、ジョーンズの悲鳴が上がるが、こちらは無視だ。

 

 

「馬鹿な、人間モータル如きが私の『念動力サイコキネシス』を破るだと!?」

 

 

そう、ハンターを殺し、精霊獣を砕き、そして弾丸を止めて逆に返したのも、全て念動力サイコキネシスだ。

通常の念動力サイコキネシスでは物理的に作用はしても、魔術で作られた精霊獣まで消し去れない…が、使い手は吸血鬼ヴァンパイア

念動力サイコキネシスに自らの”意志”を込めることなど造作もないのだろう。

 

 

「貴様は手の内を見せすぎだ」

 

 

並の炎では吸血鬼ヴァンパイア念動力サイコキネシスに抵抗はできないだろう。

だが、景太郎は〈精霊を介して己の意志をこの世に具現化する〉精霊術師。

景太郎の意志がこもった炎のリングが、吸血鬼ヴァンパイアの念を焼滅させたのだ。

 

そして、その炎のリングは大きく宙を旋回すると、再び吸血鬼ヴァンパイアに向かって襲いかかる!

 

 

「今程度の念動力サイコキネシスを破った程度でいい気になるな!」

 

 

自分の力が破られたことが誇りプライドが傷つけられたのか、

今までとは比べ物にならない程の、空間を歪ませるほどの念動力サイコキネシスを使う吸血鬼ヴァンパイア

さすがにこれには耐えられなかったのか、炎のリングは静止することなく木っ端微塵に砕け散った!!

 

 

「ハッ! 本気を出せばこの程度の炎など―――――」

「その思い上がりが命取りだ」

 

 

直後―――――吸血鬼ヴァンパイアが前触れもなく吹き飛び、シャロン嬢を抱き抱えた景太郎が大地に降り立った!

 

 

 

 

―――――その2へ―――――

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