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「私は精霊術師だ」

 

 ピートの言葉の余韻が冷めぬ空間に、マクシミリアンの無機質な言葉が響いた。黙々と武器の点検をしている景太郎を除き、全員の視線がマクシリミアンに向けられる。

 

「精霊術師は、この世に蔓延る『邪』を討つことが使命であり、その為に精霊の力を使う」

 

 その言葉は、精霊術師にとって至極当然であり、神凪にも同じ意味の言葉があり、術を学ぶ前に何をおいても憶えさせられる。同時に、精霊術師の誰もが忘れがちとなってしまう信念でもあった。

 

「おっさん…何が言いたい」

「たとえ、それまで行動を共にした者であろうと、『邪』である以上は躊躇無く滅する」

「………やってみろや」

 

 グリニデが…トムが再び武器を構えて立ち上がる。そんな二人を余所に、エルザはただ真っ直ぐマクシミリアンを見、またマクシミリアンも動じることなく三人の視線を真っ向から見返す。

 そんな一触即発の四人をなんとかなだめようとピートが口を開いた…その矢先、

 

「落ち着いたらどうですか」

「止めるな坊主!」

 

 手元の苦無から目を逸らさず止める景太郎に、グリニデが剣呑な目を向ける。邪魔をするならもろとも容赦しねぇ―――――向けられる殺気が雄弁にそう語っていた。

 そんなグリニデに景太郎は目を向けると、嘆息と共に言葉を紡いだ。

 

「誰もエルザさんを殺すなんて言ってません」

「あぁ!? だがそいつは……」

「”邪”を滅すとは云いましたね。”魔”ではなく”邪”を………」

「「あっ………」」

 

 確かに、マクシミリアンは『邪を滅す』とは云ったが、『魔』ともエルザとも言っていない。ただ単純に、話の流れから『エルザを殺す』という感じに受け取ってしまっただけだ。

 

「それとも、二人はエルザさんを『邪』と思っているんですか?」

「んな事ちっとも思ってねぇよ」

「冗談じゃねぇ…」

 

 景太郎の言葉を否定し、武器を戻して座り込むグリニデとトム。勘違いとはいえエルザを『邪』扱いしてしまった事に、二人ともばつの悪い顔をしていた。

 

「マクシミリアンさん。貴方ももう少し言葉を選ぶべきです。言葉少ないのも結構。でも、勘違いされても言い訳にはなりませんよ…」

「そうだな……済まない」

「誤る相手が違います。それと、次は止めません」

「解った…済まなかったな」

「いや、気にすんな。勘違いしたこっちもお互い様だ」

「景太郎君に言われたからきちんと言っておく。先程の言葉に嘘偽りはない。
 身内であろうと、邪悪に染まり堕ちた者は滅する。それ以外は…『魔』の血が流れていることで偏見する気も、『邪悪』と決めつける気もない。これでも上流階級の人間だからな。人を見る目はあるつもりだ」

 

 そこまで言うと、マクシミリアンは皆に背中を見せるように座り直した。

 

「ようようおっさん、嬉しい事言ってくれんじゃねぇの。ん? なんだ、照れてんのか?」

 

 マクシミリアンに近づき、馴れ馴れしく首に手を回すトム。自分の姉貴分が認められたことが嬉しかったのだろう。だがそんな馴れ馴れしい行為に、マクシミリアンは煩わしいと言わんばかりに搦めた腕を振りほどこうとするが、トムはなかなか放れようとしない。

 

「やめんか、小僧!」

「ンだよ、照れることねぇじゃねぇか。本当に嬉しかったんだぜ…まぁ、最後のは余計だったけどな」

「別に貴様を喜ばせるために言ったのではない。私の考えを言っただけだ!」

「それが結構嬉しかったりするんだな、これが」

「喧しい、さっさと放さんか!」

 

 もがくマクシミリアンに放そうとしないトム。
 今までのような殺伐とした喧嘩ではなく、どこかじゃれあいを思わせるその光景に、景太郎を含めた一同の顔は自然と綻んでいた。

 

「それはそうと…一つ疑問なのですが、エルザさんは一体何歳なのですか?」

 

 今思いついたという感じでエルザに質問するピート。エルザの見た目は二十歳と少々と云った感じだ。だが、ダンピールは総じて長生き…見た目と年齢が一致しないのだ。

 

女性レディに歳を訊くのは礼儀マナー違反じゃないのかい、神父さん」

「あ、そうでしたね。つい好奇心で…どうも済みません」

「良いよ。今は機嫌がいいしね。特別に教えて上げる。神父さんは私は何歳に見える?」

「そうですね。見た目は二十…四、五歳ですね」

 

 エルザを上から下まで観察するピート。艶やかな肌にメリハリの利いたスタイル。ジャケットを羽織ってもなお、その肢体のふくよかさを容易に知らしめている。そして美人と言える顔立ち。幼さを一切感じさせないのは、今までの辛い人生ゆえだろう。

 そして雰囲気は…普段は気立ての良い姉御だが、戦闘時は鬼気迫る感じだ。正直言えば、二十二、三ぐらいだが、全体の雰囲気が歳を上に見させている。

 

「正解はね、今年で四十歳。歳をとるスピードが大体二分の一ぐらいね」

「そうなんですか…いや、お若いですね」

「一応、誉め言葉として受け取っとくよ」

 

 ピートの言葉に苦笑するエルザ。そんな二人を余所に、マクシミリアンから離れたトムが今度は景太郎の側に近寄り、小さな声で話しかける。

 

「聞いたか坊主」

「ええ。聞くだけは…」

「つまりだ。あの胸が垂れるのも当分先―――――『ドンッ!!』

 

 どでかい銃声と共に壁に穴が穿たれる。その穴の周囲が大きく抉れ、放射状に走っているヒビがその威力をもの語っているかのようだ…

 トムは自分の真横、首元を通った弾丸が発射されたところに目を向けると…そこには、硝煙を銃口から立ち上らせている銃と、その銃を構えたエルザの姿があった。

 

「トム君。君は何度言っても解らないようね」

「い、いえ…そんな事ないであります。はい」

「耳が悪いのかしら? だったら脳味噌に直接声が届くような穴を開けなくちゃダメね」

「け、結構ッス!」

 

 両手を上げて全面降伏を示すトム。エルザの普段とは違う口調が、何やら恐ろしいものを感じさせたりさせなかったり。恐怖に負けてか、トムまで口調が変わっている。

 

「離れてください、トムさん。服が血で汚れます」

「冷たい事言うなよブラザ〜、しかも撃たれること前提でよ〜」

「だから離れてください」

「助けてくれよ〜」

 

 景太郎がいれば撃たれないと思ったのか、必死に縋り付こうとするトム。その思惑は当たっているのか、エルザはつまらなさそうに舌打ちすると、銃をホルダーに戻した。

 

「景太郎君。君に聞きたいことがあるのだが…かまわないかね?」

「………かまいません。内容によりますが、俺もエルザさんに込み入った質問をしてしまいましたし」

 

 短い沈黙の後、快く…かどうかは知らないが、一応了承の意を示す。

 神凪の内情…そして奥の手は教えるつもりはないが、内容によっては一つぐらいは教えても良い。なにせ、意図的ではないにしろ、人の聞かれたくない過去を暴いてしまったのだ。ある程度のことは…教えても良い。景太郎はなんとなくそう考えていた。

 

「ならば訊くが…神凪の炎術師が扱う炎は、我々のような炎術師が使う炎とは違う。魔のみを焼き尽くす『浄化の炎』―――――と訊いた。これに違いはないね?」

「違いありません。それがなにか?」

「その炎…浄化の力を秘めた炎は黄金きんに輝く。そうだね?」

「ある一定以上の浄化の力があれば、そうなります。今ではそれだけの力を持つのは宗家のみ…分家の者も、ある程度浄化の力を有しますが、黄金きんになるほどではありません」

「つまり、黄金きんの炎を使えるのは宗家…直系の者達のみ、なのだね」

「はっきりと言えばそうです。聞きたいことはそれですか?」

「いや、これは知っている事の確認だ。訊きたいのは別…君に関してだ」

「俺…ですか」

「神凪宗家の炎は黄金きん…だが、君が昨日扱った炎は白銀ぎん…これはなぜだね?」

「…………」

 

 沈黙する景太郎。今までに幾度となく訊かれた質問。自分に流れる一族の血…それを否応なく知らしめる色だ。

 

「いや、言いたくないのなら無理には……」

 

「かまいません。とるに足らない簡単な理由です。俺の炎が違うのは…神凪の者ではないからです。
 俺は幼少の頃、とある一族から捨てられた存在……路頭に迷っていたところ、神凪宗主『神凪 重悟』様に拾われ、養子となったんです。
ですから、俺は神凪の血族ではないため浄化の力はありません。なぜ白銀ぎんかは…答えたくありません」

「いや、それだけ聞けば充分だ。悪かったね、込み入ったことを訊いてしまって…」

「気にしないでください。本当にとるに足らないことです」

「そうか…しかし………」

 

 

 それ以上は言葉にしないマクシミリアン。

 どこの一族かは知らないが、景太郎ほどの逸材を捨てるなど、愚かとしか言い様がない。この歳であれ程の実力を持ち得る才能を秘めている逸材。手放すなど本当に愚かだ。仮に自分がその一族の立場だったら、炎術の才能が無くとも景太郎を決して手放さなかっただろう。

 

(ふむ…ますます景太郎君に興味がでてきた。これは是非にでも婿に来てもらわんとな……)

 

 ニヤリ…と笑いながら景太郎を見るマクシミリアン。ちなみに娘は十二歳。非情に微妙な年頃だ。(ついでに言えば白井の婚約者も十二歳だが…)

 当の景太郎は自分が狙われているとはつゆ知らず、その場から立ち上がった。

 

「一時間経ちました。結界はまだ余裕ですが…これ以上時間は無駄に出来ません。そろそろ行きましょう」

「そうだな。疲れもとれたし…やるか」

 

 グリニデの声の元、皆もその場から立ち上がった。

 その時―――――入り口の横の壁に赤い染みが浮き出てくる! 皆が何事かとその染みを見つめる中、その染みは明確な文字となった。

 その文字とは……

 

 

『さて諸君。十二分に休憩はとれたようだね…

 ところで、この部屋に置いてあった財宝は喜んでもらえたかな? 予想以上に頑張る君達に対してのささやかなプレゼントだ。遠慮無く受け取ってくれたまえ。君達にはそれだけの価値があると思っているよ。

 そうそう、残る試練は後二つ。千体の妖魔と、我が最強の手駒だ。是非とも頑張ってくれたまえ。早く我が元に辿り着く事を期待しているよ。

 

追伸―――――『カンナギ ケイタロウ』その他はともかく君だけは我が元に必ず来るように。待っているよ』

 

 

ズドンッ!!

 

 描かれた文字の真ん中に叩き付けられた拳が壁を大きく凹ませ、放射状にひび割れを走らせる。拳を叩き付けたのはエルザだ。内心の激情を現すかの如く荒々しく息を吐き、壁を睨んでいた。

 

「巫山戯やがって…まってな、その雑魚があんたの頭に風穴開けてやるからさ」

 

 拳を引き抜き、入り口の前に立つエルザ。その隣には景太郎を除いた皆がそろっていた。

 

「さて…それじゃぁ、本命を相手する前の準備運動でも開始するとするか」

 

グリニデの言葉に同意を示す皆。景太郎を除き、雑魚扱いされたことに腹を立てているのだ。今の皆の心の中には、腹が立つ吸血鬼ヴァンパイアを倒すことしかない。

 先程までとはまた違った一致団結の仕方だが…これもまた良い方向だろう。少なくとも、城に突入した時よりは良い闘いが出来るのは間違いない。

 

「さてと…坊主、結界を解け―――――と、言いたいところだが、ここで一つ提案がある」

「なんだ、言いたいことがあるのなら早く言え」

 

 勿体ぶった言い方をするグリニデに、不満げな顔をするマクシミリアン。グリニデはそんなマクシミリアンに対し、ニヤッと不敵な笑みを見せた。

 

「”賭”をしないか」

 

 グリニデの突拍子もない言葉に、その場に皆は目を丸くした。

 

「また兄貴の悪い癖が始まった……」

「うるさい、お前は黙ってろ。で、どうする?」

「どうするも何も、まず内容を聞いてからだ」

「そうですね」

 

 意外と云えば意外か…マクシミリアンとピートが反対する事無く内容を問い返す。

 色々と規格外な神父・ピートはともかく、真面目で融通が気かなそうなマクシミリアンが反対しないことに若干驚くグリニデだが、すぐに嬉しそうな顔になって続きを話し始めた。

 

「なに、簡単な話だ。外にいる妖魔千体…一番多く倒した者にみんなが奢るってわけだ」

「ほほぅ…それは面白いな。ちなみになんでも良いんだな。食事でも買い物でも」

「たりめぇよ。ただし、常識の範囲内でな。多額だったら皆がワリカンで、少額だったら一人一人が払うって方法でな」

「大きいものを一つ買うか、小さなものを五つ買うか…負けても負担は少なそうですし、私はかまいませんよ」

「うむ…私も良いだろう」

「あたしもね。余興の一つぐらいあっても良いさ。やる気がでてくる」

「はぁ〜…おっさんに神父、姉御が賛成したら、俺と坊主が反対しても意味ねぇわな。良いよ。俺も賛成しとく。絶対に負けないようにしないとな……」

「俺は…「おっと、坊主は結構だ」…なぜですか?」

 

グリニデの参加禁止の言い渡しに不満げな顔になる景太郎。なにげにやる気満々だ。

 

「未成年は賭事禁止だ。常識だろ。それに、子供に奢ってもらうのは気が引けるからな」

 

もっともらしい事を言うグリニデ。本音は、景太郎が入るとそのままトップになりかねないので除外したのだ。

 

(チッ…先のあれの所為か。少々気張りすぎたな)

 

 おそらく、部屋に入る前の闘いの所為だろうと推測する景太郎。

 確かに、一分に満たない間に百を超える妖魔を倒す様を見れば、誰だって除外もしたくなる。よく見れば、その他の皆もグリニデに同意するかのように頷いていることから、同じ考えなのだろう。

 

(魔石でも買いこもうかと思ったのに…失敗したな。まぁ、臨時収入もあったから良いか)

 

 自分の迂闊さ(グリニデ達にとっては幸運)に溜め息を吐き、あっさりと諦める景太郎。

 そんな景太郎を余所に、グリニデ達が少々言い争っていたが、一分も経たない内に静かになり、全員が景太郎に向き直った。

 

「おっし坊主、準備は良いぜ。結界を解きな」

「解りました…では解除します―――――『解』!!」

 

 

 景太郎の解除の言葉と共に消える五芒星。

 それと同時に、それぞれの武器を構えたグリニデ達が、我先にと部屋から飛び出し、勇ましい掛け声と共に妖魔の群に向かって突進した!

 

 

 


 

 

「不謹慎な! 妖魔との戦いの最中に賭事など!!」

 

 

 話の途中で憤慨したように素子は立ち上がり、景太郎に向かって怒鳴る。

 退魔…一般の人々を護る誇りある仕事の最中に賭事を持ち出すことが腹に据えかねたのだろう。元々固い性格で、悪ふざけや冗談が通じないところがあるから尚更だ。

 

 

「青山、いいから座れ。話の途中だ」

「貴様も貴様だ! 賭事を止めるどころか一緒になって「黙れ」―――――うっ!」

 

 

 静止をも聞かず責めようとする素子を一言で黙らせる景太郎。これ以上ガタガタ抜かすのなら物理的に黙らせる…そんな景太郎の意図を察したのだろう。

 ここ最近、色々あって景太郎が親身(鶴子のことや刀、稽古)になってくれていたので忘れていたが、基本的に景太郎は『神鳴流』の者を問答無用で嫌っているのだ。

 

「退魔に出ることも許されない半人前が知った風に語るな。現場には現場だけに通じる常識、ルールがあるんだ。それも知らずに囀るなど十年早い。阿呆が」

 

 怒気も露わな景太郎の眼光に完全に萎縮してしまう素子。目線の高さは同じはずなのに、頭上から見下されているよう感じていた。

 先程までの稽古で、景太郎との比べることの出来ない桁違いな実力差を半ば強制的に教えられた後のため、その感じはより一層強い。

 

(この場に皆がいて良かった…いなかったら間違いなく殴られていた)

(チッ…キツネさんはともかく、成瀬川達がいなかったら即刻叩きのめしていたのに……)

 

 ホッとする素子に、心の中であからさまに舌打ちする景太郎。素子もなかなか景太郎のことを理解してきているようだ。ただ…反省が生かしきれてないところが致命的だが………

 

「憶えておけ。どんな方法でもいい、『やる気』はそのまま生還率を高める。あの場合も、賭事を持ち出して『負けられない』思いを強め、やる気を出させた。他の方法でもいい、好きな人の元に戻ることを考えても、やり残したことをやりたいと考えてもな…
 心が負ければ何をやっても勝てはしない。お前もついこの間、実感したばかりだろうが」

 

「あぁ……」

 

 この間の鶴子から出された試験…あの時も、心が弱かったため、何をやってもダメだった。最初から、慢心などに負けない強い心を持っていれば、止水を失うことも、大事になることもなかったのだ。

 

「なぁなぁケータロー」

 

 重い雰囲気を悟って何も言えない中、そんなのは知らんと言わんばかりのスゥの明るい声が響いた。ちなみに景太郎の背中から……その場所が気に入ったのか、またまた張り付いたらしい。

 

「ちょっとカオラ!」

「良いよ、しのぶちゃん。それで、なんだい?」

「倒した数を競うゆ〜ても、嘘言うんやないんか?」

「それはないよ。二人一組になってね、お互いの数を数えていたから」

「ちょ、ちょっとそれって危ないじゃない!」

「大丈夫。その程度は片手間でできるレベルの連中だから。
 むしろ、下級相手にその程度のことが出来ないレベルで伯爵級を相手だなんて無謀だ。下級妖魔相手に余所見して死ぬか、吸血鬼ヴァンパイア相手に死ぬか…遅いか早いかでしかない」

「そ、そうなの……」

 

 ”死”と云う今まで何度も見たり聴いたりした事のある単語。

 他の誰から聞いても軽く感じるたった一文字の言葉が、今の真剣な景太郎の口からは何より重々しく感じる。これが、”死”と隣り合わせに生きてきた者の言葉の重みというものだろうか……

 成瀬川は…そしてこの場の皆は漠然とそんな事を感じていた。

 

「それで話は戻すが…二人一組は、俺とグリニデさん、エルザさんとピートさん、トムとマクシミリアンさんの三つだ」

「ふ〜ん、まぁ、公平にするんだったら三人組はバラバラなのが妥当って…最後のは問題じゃないの?」

 

 至極当然の意見だ。もっとも仲の悪い二人が組になるなど、無謀も良いところだ。普通に考えれば別々にするか、故意に足を引っ張るために組ませるかのどちらかだろう。

 

「まぁ、俺もそう思ったんだけど……本人達の希望でな。
 最初はトムさんとピートさんだったんだけど、俺の知らない所で口論になったらしく、マクシミリアンさんが『こいつは神父を騙すことぐらい平然とやる!』なんて言って…そうしたら、トムさんが『だったらテメェが数えるか。おっと、術だけが取り柄の術者様には俺の動きが見えるはずねぇか』とか言って…
 後は売り言葉に買い言葉、なし崩し的にお互いを監視することになったんだ」

「話を聞いとる限り、妖魔っちゅうのは大したことないんやな。暢気に喧嘩しといて…」

「それだけ、彼らが実力者だと云うことでしょう。悪霊ならともかく、妖魔は並の術者の手には余ります」

 

 キツネの意見を真っ向から否定する素子。

 確かに、景太郎の話を聞いていると”妖魔”が凄く弱く感じるが…実際はそうではない。話の中に集まった連中の攻撃力が半端でなく高い所為で、そう思うのだ。実際、在野の術者には、本当に手に負えない事が往々にしてある。悪霊などを滅したり、呪いの対処をしたりが主で、妖魔になると手も足もでない者が多い。

在社の術者とは、先祖返り的に霊能に目覚めたり、大きな組織の末端からはみ出た者達のことだ。中には強力な術者も存在しているらしいが、それは本当に極希…血族組織が主な日本では特にそうだ。

 

「その妖魔が下級とは云えまがりなりにも妖魔…しかも千体です。それをたった六名…いえ、五名でそれに立ち向かうなど、正気の沙汰とは思えません。
 神鳴流でも、その人数で千の妖魔を殲滅するなど、上位の者でないと不可能です」

「そ、そうなんか…そらすまなんだな」

 

 素子の力説にひいてしまうキツネ。少々力を入れすぎだが…それもやむをえない。

 好奇心の塊のようなキツネが『妖魔など大したことはない』と間違った見解で退魔についてきたら一大事だ。ただでさえ、野次馬根性で何事にも首をつっこみたがる質なのだ。生半可な知識を元にオカルト事件に関わると、最悪の場合”死”あり得るのがこの世界なのだ。

景太郎クラスになれば護りきれるだろうが…自分にはそんな実力も、自信も無い。

 

「あ、あの…それで、誰が一番だったんですか?」

「ああ、そうだねしのぶちゃん。一番妖魔を倒したのは………」

 

 

 


 

 

 戦闘を再開して数分―――――それぞれが孤軍奮闘して妖魔を凄い早さで駆逐していた。

 

 

「おらおらおらおら!! 弱い奴からかかってきやがれ!!」

(弱い奴って…思いっきり雑魚を倒して数を稼ぐ気か。意外にせこいな…)

 

 パニッシャーを回転させて妖魔を細切れにして行くグリニデ。そして部屋の前に陣取った景太郎が心の中でつっこみを入れながら、滅した妖魔を黙々と数えていた。

 ちなみに、宝物庫の入り口ごと自分の周囲を改めて作った強力な結界で覆っている為、景太郎はのんびり見学している。

 

(しかし数が多いな…この状況下、俺が一人で相手をする場合はどうするか…八門遁甲で数を減らして……しかし、設置に手間が…やっぱりあれで………)

 

 自分ならこの状況下、どうやって戦うかを試行錯誤する景太郎。いつでもこの様なことを考える姿勢が、彼をより高みに押し上げる要因の一つなのかもしれない。

 

 

 一方―――――その他の場所では、

 

 

「おらおらおっさん、ちゃんと倒した数を数えてんのかよ!」

「ぬかせ小僧、貴様こそちゃんと数えているのだろうな。適当に数えるなよ!」

「ハッ! ハンターの誇りプライドに賭けてきっちり数えてやるよ」

「言ったな。ならば、こちらはマクドナルド家の誇りプライドに賭けてやろう。光栄に思え」

「上等。その目をよ〜く見開いて数えろよ」

 

 

 言い争いしながらも手を休ませず、次々に妖魔を駆逐するトムとマクシミリアン。

 トムは二本の小剣ショート・ソードを駆使し、高速移動で通り抜け様に妖魔を瞬く間に倒して行くのに対し、マクシミリアンは三体の精霊獣を効率よく、まるで指揮者のように操り、凄まじい速度で妖魔を滅す。

 何だかんだと云いながらも、お互いがお互いをフォローし、戦いやすいように動いているようだ。これを見る限り、意外とこの二人は気があうのでは? と、なんとなく思ってしまう。聞けば間違いなく、二人は否定するだろうが…それが、この二人にとってベストなのだろう。

 良い意味で刺激し合う関係…表上反目しあい、己を高めるタイプなのだろう。

 

 

 そしてもう一組―――――エルザとピート。

 ダンピールと神父という、世間では信じられないこの組み合わせは…

 

「便利だね、これだけ多かったら目を瞑って撃っても勝手に当たってくれるし」

「しっかりと目を開けて狙ってください! なんで私の側に撃つんですか」

「気にしない気にしない。偶々だから、偶々。扱っているのが銃だけにね」

「日本語で洒落なんか言わないでください!!」

 

 意外と上手くいっているようだ。まぁ…少々ピートに泣きが入り、エルザがいじめっ子になっているが…微笑ましいものだ。

 それに、何だかんだ言っても妖魔を倒すスピードは大したものだ。特にピートなど、光の剣を使った華麗な剣技は凄まじく、一振りで確実に三匹以上の妖魔を倒している。

 

「凄いね、神父じゃなくて騎士に見えるよ。そっちの方がさぞかし女にもてるんじゃないの?」

「ははは、私は神に仕える身。色恋沙汰には興味はありません」

 

 朗らかに笑うも、その手は休むことも、一切鈍ることもない。その事に内心舌打ちしながら、どこか諦めた感じで溜め息を吐いた……

 

(悔しいけど、多分あたしがビリだね…)

 

 エルザの想像は当たっている。今現在で、三十匹倒したエルザが最下位だ。トップはその相方のピート。すでに百匹もの数を倒しており、実にエルザの三倍以上の数だった。

 最初に聖書による浄化の閃光で三十体近くを滅し、それから光の剣で倒したのだ。今闘っている中で物理的な…破壊力などの力ではグリニデがトップかもしれないが、対妖魔では、浄化の力を駆使するピートが最強のようだ。

 底の見えない霊気の総量、浄化にまで到る高い霊格、その二つが妖魔に対する絶対的なアドバンテージになっている。おそらく、彼を手放さないために教会は多少のことに目を瞑って公式悪霊祓いエクソシストにしたのだろう。

 この戦いを見る限り、それは十二分に納得できることだった。

 

(伊達に公式悪霊祓いエクソシストじゃないってわけだね…これは、あたしも覚悟を決めないとね)

「神父さん、ちょっと準備するから足止めお願いね」

「えっ!? ちょっと待ってください、なんの準備ですか! そもそも私も手一杯なんですけど?!」

「ご馳走の準備」

「ご馳走ってなんですか!?」

 

 エルザが抜けたため一気に襲いかかってくる妖魔を次々に駆逐するピート。その時点で、エルザがそれとなくフォローしていてくれたことに気がついた。

 

(フォローに気がつかなかったとは…なんて私は情けない)

「―――――解りました! でも早くしてください!」

「はいはい」

 

 ピートに返事しながら背負ったリュックを下ろすエルザ。リュックを下ろした際、ゴトン! と云う重々しい音が鳴った。さすが力持ちのダンピール。今までそんな重たそうなものを担いで戦っていたとは……

 それはともかく、エルザは横目でピートの倒した妖魔の数をきっちりと数えながら、リュックの中から拳大のごつごつした物を複数取り出した。

 

「さぁて…神父さん、巻き込まれたくなかったら後ろに上がった方がいいよ」

「はい? 巻き込むって……」

 

 ピートが全てを言い終わらぬ内に、エルザは取り出した物から何やらピンを引き抜くと、ピッチャーよろしく大きく振りかぶり―――――妖魔に投擲した!!

 エルザの馬鹿力で投げられた黒い物体は、あまりの威力に先頭にいる妖魔の頭を粉砕、更にその後ろにいた別の妖魔の身体にめり込んで止まった。

 その直後―――――

 

 

ドゴーーンッ!!

 

 その妖魔が爆発し、その周辺にいた連中もろとも木っ端微塵の肉片となった!!

 

「エ、エルザさん! 一体何を投げたんですか!」

「だからご馳走。パイナップルをね。別名『手榴弾』」

「逆です! って言うか、そんな危険なものを持ってきたんですか?!」

「備えあれば憂い無しってね。さ、次々行くよ。これ出した以上、トップをとって元を取らないと。それにしても思ったよりも火力がしょぼいね。もっと派手に爆発するはずなんだけど…まぁいっか」

 

予想以下の爆発を訝しがりながらも、エルザはかまわず次々に手榴弾を投擲し、妖魔を駆逐する。

 

「おいこらエルザ! あぶねぇじゃねぇか!」

「ごめんごめん。謝ったついでにそっちに行く投げるよ」

「馬鹿、止めろ!!」

 

 グリニデの抗議などなんのその。エルザは涼しい顔で無情にもグリニデの真横の妖魔に投擲、爆発する。間一髪グリニデは回避できたが、服の端々が焦げており、多少なりとも傷を負っていた。

 

「はい次、妖魔がかたまっている所狙うからね、あんた達勝手に逃げなさいよ」

「ちょっと待ってくれ、姉御!」

「問答無用。あたしは負けるのが嫌いなんだ」

「我が儘なことを言うな!!」

「はい、次そっちね」

「やめんか!!」

 

 トムとマクシミリアンの泣き言など聞き入れず、どんどん手榴弾を投げるエルザ。

 そんな若干一名の暴挙に、妖魔が全ていなくなるまでさほど時間はかからなかった……

 

 全ての妖魔がいなくなった後の部屋は…どうなっていたのかはあえて語るまい。

 

 この場にいた皆は、この女には逆らうまい…と、固く誓ったとかどうとか……

 

 

 とりあえず、エルザのおかげ? で、吸血鬼ヴァンパイアが設けた三つ目の試練はクリアできたことは間違いない。

 後残るは最後の試練…『最強の手駒』とやらと、吸血鬼ヴァンパイアそのもの。

 

 夜明けまでの時間はまだまだ余裕はあったが、この仕事の解決への道のりは、まだほど遠いようだ…………

 

 

 

 

 

 

 それはともかく―――――先の賭事の結果は、妖魔を実に三百体近く倒したエルザがトップとなり、皆に奢らせることとなった。

 時点はグリニデで二百少々…密集したところを狙っていたのだが、エルザの的となり後半逃げ回っていたので数が伸びなかったのだ。

 一番の本命だったピートは生真面目なところが災いし、エルザの倒した数を数えるのが忙しくて二百体と云うグリニデと僅差で三番手に落ち込んだ。

 そしてトムとマクシミリアンは共に百五十。見事に数が一致し、二人の勝負は付かなかった。その為、二人は自分が倒した妖魔の方が大きいだの強いだのと醜い争いを始めたとかなんとか……

 しかし、トップとなったエルザの『どちらも負け』と云う言葉に、何も言えず下がってしまったのはなんとも言えない光景だった。

 

 

 


 

 

 

「―――――とまぁ、そんな事があってエルザさんが一番になったんだ」

「無茶苦茶な女やな…いきなり手榴弾を投げるか?」

「本人曰く、効果的ならなんでも使う、それがハンターだ。だそうです。キツネさん」

「そうか。しかし、その妖魔っちゅうのは、爆発でも死ぬんか? 今まできいとった話やったら、〈霊気〉やら〈氣〉やらそんなん無いと効かんのかと思とったんやけど」

「物理的にこの世に現れている場合は、一応効果はありますよ。ただし、効果は本当に薄いですけど…
 それに、あれは特注品だったらしく、爆発力が数倍の上に”聖”属性を付与エンチャントしていたからあれだけ効果があったらしいですよ」

「普通の銃程度では、妖魔を倒すことなどは不可能です。良くて掠り傷程度でしょう。その為に、我ら神鳴流は〈神氣〉を用い、妖魔を一刀の元に滅することが出来るのです」

「そうなんだ…私はてっきり、素子ちゃんの技って人を吹き飛ばすためのものかと思ってた」

「うっ……」

 

 成瀬川のなんの悪気もない一言に、言葉を締めくくった素子の顔が引きつる。実に自分の普段の行動を現している言葉だろう。

 白い目で見ている景太郎の視線に素子は身体を縮こまらせ、話題を変えようと言葉を続けた。

 

「そ、それに妖魔を物理的に倒しても、色々と問題があるためあまり勧められません」

「問題ってなんなの、素子ちゃん」

「一番は、殺した妖魔が霊的な…悪霊みたいに肉体を失い、取り憑いたりすることです。
 この場合、術者であれば対処できますが、普通の人では取り憑かれたり、小動物に憑依して復活したりします。そうなればイタズラに被害が増えるだけ…ゆえに、倒すときにはもろとも滅さなければならないのです」

「更に補足すれば、妖魔の死骸からも妖気が発生したりして、小動物が凶暴化することもある。妖気というのはこの世の生物にとって等しく”毒”だからな」

 

 疑問に答える二人だが、そもそも一般人には…特に日本ではあまり関係のないことだ。

 警官が持っている銃程度では雑魚妖魔ですら倒せないのだから、妖魔を物理的に殺すことなどほとんど無い。九割以上の確率で、被害があってから退魔士が出張り、退魔を行うというのが通例。それが警察の上部を通してか、地方の権力者を通してか等、依頼者は様々だったが……

 

「とにかく、餅は餅屋に任せたらええ、っちゅう事やな」

「そう言うことです、キツネさん。多少知っているからと言って、首をつっこまないように」

「はいはい。そん時は真っ先に景太郎に連絡入れるさかいに、護ってや」

「巻き込まれたのならいざ知らず、自ら進んで関わったやつの面倒までは見ませんよ。故意にしろ他意にしろ…自分から”死”が隣り合わせの世界に首をつっこむんです。
 妖魔や術者に殺されても、それは自業自得なんです。覚悟があるにしろ無いにしろ…ね」

 

 目を細めて淡々と語る景太郎の言葉と、怒りの雰囲気に気圧されるキツネ達。

 実際にそうなれば、保護者である以上、助けもするし護りもする。だが…今の言葉に嘘偽りはなく、怒りも紛れもない本物。ただし、思い出し怒りだ。

 

 今までに出会った、『自分は大丈夫』などという根拠のない自信をもって首をつっこみ、場を乱す者達……ちょっと知っただけで自分は関係者のような顔で平然と闇の深くまで踏み入る者……

 力も運もないそんな連中は毎年何人も出て、九割以上が帰ってこない。

 そこまでは良い。自業自得、自分の命をどう扱おうが本人の勝手。迷惑さえかけなければいい。だが、そう言った無知な連中、その周囲の者は、無事に帰ってきた者を罵り、恨むのだ。なぜ助けてくれなかったのか、なぜお前だけ生きているのか…と。

そう言った連中を、景太郎は嫌悪しているのだ。ゆえに、いつも警告している。関わるのなら覚悟を決めろ…と。もっとも、殆どが無駄な徒労に終わっているが…それでも、止めることはない。無駄だと理解しても……

 

「景太郎?」

「あ? いや、済まない…ちょっと考え込んでいた」

 

 成瀬川の声に軽く謝る景太郎。もう重い雰囲気はない。皆は元に戻った景太郎の雰囲気にホッと一安心した。

 

「それで…どこまで話したっけ?」

「千の妖魔を倒し、エルザという女性が賭けに勝った所までだ」

「そうだったな…それで、妖魔を全て倒した後、また扉が開いてな。次の部屋に移ったんだ」

「四つ目の試練…敵の最強の手駒とやらだな」

「ああ、本当にあの中では最強だったな。あらゆる意味で……」

 

 

 素子の言葉に軽く一笑しつつ、話の続きを語り始めた………

 

 

 

 

 

―――――五幕へ続く―――――

 

 

 

《あとがき》

 

 どうも、ケインです。後残すは手駒とマルキオ本人です。手駒の方は一気に行くとして…後三話…七幕で終了予定です。ようやく終わりが見えてきました。以前の後書きでも書いたと思いますが、なぜここまで長くなったんでしょうね…本当なら、もっとあっさりと終わるはずなのに。

 サブキャラのエルザさんとかの話が長かったんですよね…まぁ、後は一気に最終戦に突入ですけど。

 

 それと、今回から少々書き方を変えてみました。読みやすいか読みにくいかわかりませんが、感想をくださるお方はその旨をお教えください。場合によっては元に戻しますし……

 

 それでは、次回もよろしければ読んでやってください。ケインでした……

 

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