オシャレなファイルマネージャーで管理と共有

 

 

ラブひな IF           〈白夜の降魔〉

 

 

 

弐の外灯・五幕 「最終決戦―――――開始!」

 

 

 

 

 

 新たに開かれた扉…あと何回扉をくぐるのだろうか。

 マルキオと言う名の吸血鬼ヴァンパイアの言葉…文字通りならば、最低で二回。同時に、その数字は残る敵の数でもある。

そして今…新たな扉をくぐった景太郎達の前に、『最強の手駒』とやらが立ち塞がっていた。ご丁寧に次の扉の前に、両手で巨大な大剣を杖のように構えたポーズで『漆黒の鎧』が悠然と立っていた。

 

『よくぞ来た。閣下の招きし客人と従者達』

 

 漆黒の鎧から聞こえた声に、景太郎以外の者達が顔を顰める。こうも堂々と『その他大勢』と云われれば、誰でも不快になるのは当然だ。

 

「チッ、また甲冑か…しかも真っ黒。さっきのが派手な分、今度は地味だな」

「無駄口叩かず、さっさと終わらせるぞ」

 

 

 パニッシャーを構えるグリニデ。トムも小剣ショート・ソードを構えようとしたが…溜め息と共に鞘に戻した。先の甲冑ですら引っ掻き傷が精々だったのだ。目の前の黒い鎧には、とてもではないが効くようには見えない。下手をすれば、小剣ショート・ソードの方が折れるか曲がるかして壊れかねない。

 そして、それはエルザも同じ事が言える。ゆえに彼女はさっさと銃をホルダーに戻して後ろに下がっている。すでに観戦モードの様だ。

 

「相手が一人に対し大勢でかかるのは正直好きではありませんが…仕方がありませんね」

 

 躊躇した顔ながらも光の剣を構えるピート。マクシミリアンは精霊獣をフレイアに戻し、巨大なハンマーを構えさせている。景太郎はと云えば…武器を構えることなく、目を細めてジッと黒い鎧を見ている。今度もまた先の甲冑達と一緒なのか、それを見極めようとしているのだ。

 だが―――――

 

(やはり視えないか…先の甲冑達と一緒、完全に密閉型か。生半可な魔術は効果がないな)

 

 漆黒の鎧…甲冑などとは違い、動き易さをまるで無視した…本当に歩けるのか? と疑問に思う程の重厚な鎧……と言うか、もうすでに鎧ではなく、どこぞの黒い王子様ご愛用の機動兵器の縮小版と云うのがピッタリだ。

 その重々しく頑丈そうな外見から、たとえエルザの手榴弾でも吹き飛ばせそうには見えない。むしろ、そのまま平然と立っていそうな雰囲気すらある。だがそれは逆に、相手が鈍重…機動性が著しく低い証拠のようにも感じた。

 

『これより先に進みたくば、我を倒してからにしてもらおう』

「元よりそのつもりだ。だがその前に訊きたい。お前は、魂を封じられた存在か?」

『否。我は魔界より召喚されし妖魔なり。閣下の命に従い、この城に訪れし者と戦い【資格】を与える者なり』

「なんだ、一体どう言うことだ?」

「つまり、私達が吸血鬼ヴァンパイアと戦う程強いか腕試しをすると言っているのだ」

 

 いまいち理解できなかったトムに、マクシミリアンが説明をする。少し前までなら、余計な一言を加えて喧嘩をしているところだが、少しは仲が良くなったみたいだ。

 

「なら遠慮は要らないな…」

『元より無用』

 

 大剣を持ち上げる黒騎士。同時に、トムとエルザを除いた者達がそれぞれの武器を構える。

 

『近衛騎士隊長、シュトラウス・クルースニク―――――いざ、参る!』

「妖魔が偉そうに名前をもってんじゃねぇっ!!」

 

 グリニデが怒声と共に駆け、すぐ後にピート、景太郎も続く。

 

 

【神の御前より 滅び失せよ!!】

 

 一番最初の攻撃はピートだ。掲げた聖書より放たれた閃光が黒騎士に襲いかかる―――――が、その閃光は鎧の表面に弾かれてかき消えてしまう。

 黄金の甲冑に景太郎の氣弾が弾かれた時の状況と酷似している。やはり、遠距離系…エネルギー波などは遮断されてしまうようだ。

 

「直接攻撃しかダメって事ことだな、上等! そういうのは俺の専売特許だ!」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら走るグリニデ。パニッシャーを大きく振りかぶりながら黒騎士に迫る。確かに、そう云った荒事は彼の専門だ。

 

「ぶっ壊れろ!!」

『笑止……』

 

 黒騎士が手に持つ大剣を一薙するや否や、突風にも似た衝撃波が迸り、グリニデに襲いかかる。グリニデは怯むことなくその衝撃波に斬りかかるが、圧力に負けて後方に飛ばされてしまった。

 

「この野郎!」

 

 なんとか着地したグリニデが怒気を向けるが、黒騎士はそれを無視して精霊獣に向かって剣を振り下ろす。再度、放たれた衝撃波が精霊獣に襲いかかるが、直撃する前に景太郎が衝撃波を一刀の元に斬り裂く。

 

「魔力を含んでいます。精霊獣を下がらせてください。消滅でもすれば替えが効きません」

「済まない、忠告通り下がらせてもらう」

 

 景太郎の言葉に守護精獣ガーディアンを退かせるマクシミリアン。現状で炎の精霊が喚べない以上、今ある守護精獣ガーディアンが消滅すればマクシミリアンは足手まといとなってしまう。

 少なくとも、本命である吸血鬼ヴァンパイアまで守護精獣ガーディアンは残しておきたい。それに、精霊獣は使いようによっては強力な切り札になるかもしれないのだ。少しでも可能性があるのなら、それを無駄に失うのは惜しい。

 その考えが読まれたのか、黒騎士は退く精霊獣に向かって衝撃波を放つが、それら全てを景太郎は斬り払う。

 

「無視しやがって!」

 

 自分を全く無視する黒騎士に切れたのか、グリニデがパニッシャーを十字架形態に移行させる。そして柄を思いっきり握りしめて高速回転させる。その回転速度は半端でなく、傍目には円盤状にしか見えないほどだ。

 

「これでも―――――くらいやがれぇ!」

 

 投擲されたパニッシャーは衝撃波を切り裂き、そのまま黒騎士に迫る。だが、勢いを殺されてしまい、黒騎士の鎧の表面を数秒ほど引っ掻いた後、あっさりと弾かれてしまう。

 

『その程度か』

「チィィッ!」

 

 自分の元に戻って来たパニッシャーを受け止めながら、悔しそうに唸るグリニデ。衝撃で邪魔をされて近寄れず、遠距離攻撃は防がれてしまったのでは、舌打ちの一つもつきたくなる。

 しかも、今の一撃はわざと当てさせたのだろう。自分の鎧の強度と、無意味さを思い知らせるため。その程度の攻撃など、防御する価値もない…と云う風に。

 

(勢いを殺されたとしても、回転だけで鉄骨ぐらいはぶった斬るアレをまともに受けて、傷一つ無いだと? 一体どんな素材で出来てんだよ―――――くそったれが!)

「おい坊主、お前なら鎧を斬れるか?」

「やってみないと判りません」

「そりゃそうだ。それじゃ、あの衝撃波をなんとか出来るか? そうすりゃ、俺が一気にやつを直接ぶった斬るからよ」

「わかりました。やってみます」

「頼むぜ」

 

 

 その直後、まるでタイミングを見計らっていたかのように、黒騎士が剣を薙いで衝撃波を放った。

 しかし、景太郎は襲いかかる衝撃波を正眼に構える剣の切っ先越しに、ただ静かに見据えながら、静かに氣を刀身に纏わせる。

 

 

(風は木氣…すなわち、金氣をもって相克する)

「五霊戦術―――――鋼牙こうが!!

 

 

 一文字に振るわれた剣の軌跡より発生した金色の氣刃が衝撃波を斬り裂き、そのまま黒騎士に襲いかかる―――――が、黒騎士は大剣を振り下ろして氣刃を迎撃、微塵に打ち砕いた。

 

「グリニデさん、突っ込んでください」

「おっしゃぁ!」

 

 氣刃のすぐ後ろにいたグリニデが、パニッシャーを大きく振りかぶりながら黒騎士に襲いかかる。黒騎士は些かも慌てた様子も見せず、すかさず大剣を薙ぎ払うが、振るった剣圧で微風程度の風が起こるだけで、衝撃波など欠片も起きない。

 景太郎が狙ったのは、金氣の氣刃での攻撃ではない。その金氣で大剣に宿る魔力を相殺、一時的にただの剣にすること。グリニデはそこまで知る由もないが、景太郎の言葉を信じて突っ込んだのだ。

 

「もらったぁ!!」

 

 隙だらけの黒騎士に向かい、逆袈裟にパニッシャーを振り下ろすグリニデ―――――だが、

 

ガキィィッ!

 

 

「―――――ッ!?!」

 

 パニッシャーは僅か数センチほど食い込むだけで、それ以上は進もうとしない。完全に止められてしまう。

 

「なっ!」

「グリニデさん、下がった方がいいですよ」

「―――――にぃぃぃぃぃっ!?」

 

 三度振るわれた黒騎士の剣を受け止めるが、発生した衝撃波に吹き飛ばされるグリニデ。十メートル以上吹き飛ばされた後、更に十メートルほど床を転がり、景太郎達の元まで戻った。

 

「お早いお帰りで」

「門前払いをもらったんでな」

 

 景太郎の軽い冗談を、ふてくされた顔で返事するグリニデ。おそらく、絶好の機会チャンスを無駄にした自分に腹が立っているのだろう。

 

「それで、どうでした? 鎧は……」

「先の甲冑なんぞ比べもんにならねぇぐらい硬ぇ。その上、ゴムみたいに衝撃まで吸収しやがった。一体どんな素材で造られてんだよ…正直言って本気マジで欲しいぐらいだ。最高の鎧の原材料になるから高値で売れるぜ」

「余裕ですね」

「皮肉だよ…半分、本音だがな」

 

『この程度で弱音とは……貴公等の力。見切った』

 

「んだとテメェ……」

 

 

 唸るグリニデを余所に、黒騎士は突如、手に持つ大剣をその場に落とし…いや、捨てた。その行動を訝しむ皆の視線を一身に浴びながら、無手となった両腕を上げ、手の平を景太郎達に向けて開いた。

 

『貴公等は近接戦闘が中心。その実力は侮り難し。だがしかし、その反面、遠距離戦闘の力は低い。我が鎧の前に全ては無意味なり』

「それならその場に立ってろ。すぐにぶっ倒してやる」

 

 パニッシャーを十字架状に変形させ、高速回転させるグリニデ。ただし、これは投げるためではない。斬撃に回転による遠心力を加え、破壊力を増幅するためだ。

 破壊できるかどうかは判らないが、やってみる価値はあるだろう……が、先の失敗に、仲間は無情だったらしい。

 

「無駄なんじゃないの。あんまり効くようには見えないし…」

「へっ。あの切れ目を使えば簡単だ。全て計算通りだ」

「嘘ばっかり」

「喧しい!! 本当に手も足もでない役立たずはそこで見てろ!」

「言ったね! あたしが本気を出せば―――――」

「二人とも、喧嘩なら後でしてください」

「「…………」」

 

 景太郎の言葉に黙るグリニデとエルザ。子供に叱られたら世話ねぇな…と言う、トムを殴って黙らせながら。

 

「それとグリニデさん。切れ目無くなってますよ」

「なんだと!?」

 

 黒騎士の首もとを凝視するグリニデ。確かに、そこには先程まであった傷が綺麗になくなっている。それもそうだろう、先の甲冑達は再生したのだ。この黒騎士の鎧が再生しない道理はない。

 

「クソッ! こうなりゃ手加減無しでぶった斬ってやる」

「手加減ってもね…九割が十割になったとしても、あんま変わんないでしょ」

「いちいち喧しい!!」

 

 エルザの一言にまた怒りだすグリニデ。どうやら、エルザは先程の役立たず発言にいたく怒っているようだ。

 

『剣士よ。できるものならやってみるが良い』

「上等だこの黒ずくめ! バラバラのスクラップにして安値で叩き売ってやるぜ!!」

 

 パニッシャーを後ろに振りかぶり、回転を更に速くするグリニデ。あまりにも凄まじい回転にパニッシャーが暴れ始め、グリニデは両手で持ち直し、跳びかかるべく身を低くする。

 だが―――――グリニデの準備も空しく、事態は最悪の斜め上を行く。

 

『特と見よ。この―――――殲滅形態ジェノサイド・モードを!』

 

 黒騎士の鎧がグニャリと撓むや否や、至る所から棒状のものが生える。遠目から見れば、ハリネズミ擬きにように見えるが…近くで見れば、そんな考えなど霧散するだろう。

 なぜならば…その棒状の存在は一つ一つ穴が開いて…銃口となっているのだ。掲げ上げた両手も変形し、こちらは二丁の砲門と化している。

 

「「おいこら、そんなのありかぁぁあっ!!」」

 

 グリニデとトムの絶叫と共に鳴り響く無数の轟音。それと同時に景太郎は五枚の符を取り出し、ピートが聖書を広げて前に進み出た。

 

【オン―――――アミリト・ドハンバ・ウン・ハッタ】

【我が盾、我が救いの角。私を暴虐から救う、私の救いの主!!】

 

 景太郎が投げた五枚の符が、前方の空間で五芒星を描く位置で固定、光の壁を形成する。

 その直後、黒騎士の放った弾丸が衝突し、空気を震わすが逆に弾丸の方が弾かれ、またあるものは弾かれる前に粉微塵に砕け散った。

 

『さて、いつまで結界が持つかな』

 

 効果が無くとも決して手を休めない。いや、それどころか更に更に過激になって行く。それでも結界は揺るぎもしないが、長くは持たないだろう。

この手の防御結界は永久に続く存在ではなく、篭められた霊力、もしくは維持する術者の霊力が尽きれば、即座に消えて無くなるものなのだ。

 

「悔しいですが、敵の言うとおりです。上手い具合に景太郎君と私の術が融合して強力な結界、いえ、障壁ができましたが、このままではいつか………」

 

 結界を維持しながらそういうピート。客観的に見ても、このままでは負けは必死…そう遠くない未来に確実に訪れる事実だ。

 この結界が無くなれば…蜂の巣どころかミンチになって原型の面影すら残らないだろう。たとえ全身を鋼鉄の鎧で覆っていたとしても、強固な結界すら揺るがす砲弾の前には紙屑も同然。絶体絶命だ。

 

「かといって、この銃弾の嵐を常人が潜り抜けるのは不可能だ。だが精霊獣なら…」

「まてやおっさん。ここは俺の出番だ。最初から良い所がねぇからな、ここらで一発俺様が活躍…」

「黙れ小僧! 貴様は黙ってみていろ!」

「それはこっちの台詞だ! おっさんはさっき活躍しただろうが、今度は俺が―――――」

 

 ドンッ!!

 

 どでかい銃声が響いた直後、黒騎士が破裂して少量の塵と化す。

 

「な……」

「あ、姉御!!」

 

 硝煙燻るデザート・イーグルを構えたままのエルザにくってかかるトム。自分の見せ場(自称)に横槍を入れられたのだ。不満の一つも言いたくなったのだろう。

 そんなトムに対し、マクシミリアンは目の前の現象…あれ程手こずっていた黒騎士が、あっさりと消滅したことに、驚いたというか信じられずと云うか…何も言葉がでなかった。

 

「凄い威力ですね、エルザさん」

「ふふ、そうでしょう」

 

 結界を解除した景太郎が、銃を仕舞っているエルザに感心した声をかける。珍しく素直な景太郎に、エルザは上機嫌そうに銃をまた取り出すと、弾倉を引き抜いて中の弾を見せた。

 

「と言っても、これが凄いだけなんだけどね」

「それは?」

「これは『福音弾ゴスペル』って言ってね、『聖火弾セイクリッド』の何十倍も威力のある弾丸よ」

「こ、これがあの『福音弾ゴスペル』ですか…噂には聞いていましたが、実際に見るのは初めてです」

 

 エルザの持つ弾を驚いたように凝視するピート。それも致し方がない事だ。

 清められた銀の弾頭に、聖印を彫り込んだのが『聖火弾セイクリッド

 そして『福音弾ゴスペル』は、ミスリルの弾頭に聖印を彫り込んだもの。正し、聖印の数は聖火弾セイクリッドのそれに比べて実に十倍以上。虫眼鏡でも読みとり辛いほど小さい聖印を刻んでいる。

 そんな事ができる職人などほんの数人しかおらず、世に出回ることもほとんど無く、殆ど幻とされていた。偶々エルザは一人の職人とコネがあったから持っているのだが…普通のハンターが持てるものではない。

 

「もっとも…値段の方も云十倍なんだけどね。さっきの賭けに勝ったから使ったのよ。ちなみに払いはグリニデ」

「おいこら、よりにもよってなんで俺なんだよ」

「坊やが作ってくれたチャンスを不意にしたから。怒るんだったら仕留めそこなった自分にするんだね」

「グッ……この野郎」

「あたしは女だよ」

「この女郎」

 

 律義に言い直すグリニデだが、エルザは聞く耳持たないと云わんばかりに弾倉を元に戻して銃を仕舞う。

 

「それに安いもんでしょ。この状況じゃね。トムだろうと、そこの旦那だろうと、無駄に力を消費するよりはましでしょ」

 

 

 あの時、我を張って攻撃を仕掛けていれば、マクシミリアンは下手をすれば精霊獣を失いかねず、トムは…何らかの手段を使い、体力、もしくは準ずる何かを失っていたかもしれない。それを考えれば、一瞬で片がつく『福音弾ゴスペル』は正解と言えるだろう。

 実際、エルザの言うとおり、無駄に力を消費しなくても済んだ。その代わりと言ってはなんだが、グリニデの金が減ったのだが…まぁそれは些細なことだ。

 

「うぬぬぬ…次こそは……」

「それは俺の台詞だぜ。次こそ俺様の出番だ」

「まぁまぁ、どちらにしても次が最後です。皆さん、気を引き締めましょう」

 

 悔しそうに唸る二人組を宥めながら、ピートは開かれた最後の扉に目を向けた。そこには長い通路の先に、豪奢な木製の扉が見える。その先に、この城の主がいるはず…

それ以降、皆は高まった緊張に無言のまま通路を抜け…扉の前に立った。今までと違い、勝手に開かないのは…覚悟を決めろと言うことなのか。それとも……

 なんにせよ、この扉の先には最終決戦―――――伯爵位の吸血鬼ヴァンパイア、マルキオ・メルキオーネとの戦いが待っている。言わずとも知れたことに、皆の緊張はいよいよ高まり、それぞれの武器を強く握りしめた。

 

 

「いくぜ、最終決戦だ―――――奴を…ぶっ殺す!」

 

 

 裂迫の気合いと共に振るわれたパニッシャーが木製の扉を木っ端微塵に砕き、皆は向こうに見える豪華なホールに各々の武器を構えつつ飛び込んだ。

 

 そこには…

 今までで一番大きく、最終地点…王の居る場に相応しい広く華美なホール。周囲の多くが硝子で覆われており、近くの山脈の頂が月明かりで静かに照らされている様がほぼ同じ視点で見えた。

 だが、皆の目はそんな異常な光景など目もくれず、一番奥で玉座に座り、こちらを見下ろす伯爵の吸血鬼、マルキオ・メルキオーネ…

 そして、その隣…同じ豪華な椅子には、虚ろな瞳で虚空を見つめているシャロン嬢の姿に一心に注がれていた。

 

 

「ようこそ、諸君」

 

 

 マルキオが椅子より立ち上がりながら、慇懃無礼な態度で景太郎達に歓迎の言葉を紡いだ。

 

 


 

 

 

 

「その後、俺達とマルキオは壮絶な戦いを繰り広げ、艱難辛苦の末に討ち倒したんだ。そして、助けたシャロン嬢をジョーンズ…父親の元へと戻した。めでたしめでたし」

「ちょっと待ちなさいよ!!」

「なんだ、何か文句でもあるのか?」

「無いと思ってるあんたの考えがおかしいわ。一番良いところを適当にすますんじゃないわよ」

「まぁおちつけ、成瀬川」

 

 一番盛り上がるシーンを思いっきり端折った景太郎にいきりたつなる。そんななるの剣幕にちょっと引きつつ、景太郎は壁に掛けてある時計を指差した。その時計の長針と短針はもうすぐ頂上で重なり合おうとしていた。

 

「もう十二時、寝る時間だ。もう遅いし、また今度に…」

「こんな半端で終わったら、それこそ気になって眠れやしないわよ」

「そうだぞ、神凪」

 

 なるの言葉に肯定する素子。皆も同じ意見らしい。そんな皆の意見に、景太郎は仕方がない…と諦めた。幸い明日は…と言うか、今日は日曜日だ。寝過ごしても困ることはないだろう。だが……

 

「しのぶちゃんは大丈夫かい? 眠たかったら無理することはないよ」

 

 寮生の中で一番の良識人であり良い子であるしのぶはもう眠たそうだ。家事の疲れもあり、いつも早く寝ているからか、ちょっとずつ目蓋が降りてきている。

 

「いえ、大丈夫です、神凪先輩」

「そうか…それじゃぁ、悪いけどお茶を…いや、コーヒーが飲みたいな、頼めるかな?」

「はい!」

「うちは濃いヤツ頼むで〜……」

「は〜い。皆さんの分も入れてきます」

 

 机に寝そべったキツネが眠気と酔い覚ましのために濃いコーヒーを頼み、しのぶは軽快に返事をする。動けば眠気も覚めるし、コーヒーを飲めば尚更だろう。そう考えて頼んだのだが、どうやら上手くいったようだ。

 自分としては眠たいのなら寝て欲しいところだが、本人が聞きたいと言っている以上、聞かせないわけにはいかないだろう。

 暫く…と云うか、ほんの数分後、しのぶが用意したコーヒー(素子にはお茶)がされた。この辺り、しのぶの家事能力の高さが窺い知れる。

 

「さて…それじゃ、続きでも話そうか」

「今度はちゃんと話しなさいよ」

「はいはい。わかったよ」

「その笑い方は止めなさいよ。なんだか嫌いだわ」

 

 どことなく不満げな顔で景太郎の表情を否定するなる。景太郎の表情…と云うか苦笑が、聞き分けのない子供に対するものみたいに感じたのだろう。

 実際、なるは景太郎にとって三人目の妹みたいなものなのだが……なるは無自覚ながらも、それに気づき、嫌だったのかもしれない。

 

「わかったわかった。それじゃ、話を続けるぞ。確か、俺達が吸血鬼の元に辿り着いたところからだったな…」

 

 景太郎はなるの不機嫌な視線に更に苦笑すると、話の続きを話し始めた。

 

 

 


 

 

 

「よくぞ我が元へ辿り着いた、人間モータルよ。心より歓迎しよう」

 

 

 慇懃無礼に一礼しつつ、自分の用意した舞台に上がった主役達を歓迎するマルキオ。

 隙だらけのマルキオにエルザは反射的に銃を構えるが、隣にいた景太郎が手をそえて邪魔をした。奴の隣にシャロン嬢が…人質がいるからだ。
 無論、エルザの銃の腕前なら、遠く放れたここからでも狙い違わず吸血鬼ヴァンパイアに当てるだろう。この状況より館の二階、窓から射撃した時の方が距離があるため、それは疑い用はない。景太郎もそれを十二分に理解している。

 だが、この距離ではマルキオがシャロンを盾にする方が早い。そもそも、マルキオの超能力サイキック念動力サイコキネシス瞬間転移テレポーテーションの前には通用しないこともまた事実だ。

 やるのであればもう少し近づかないと…エルザは自分に向ける景太郎の視線にそう感じた。

 

「おいお前等。あのクソ野郎の横にいるお嬢さんは見えるな。まず、あのお嬢さんの身柄の確保を最優先に考えるぞ。このままじゃ迂闊に手が出せねぇ」

 

 小さな声で皆にそう話しかけるグリニデ。その意見に皆は異論はない。が、問題はどうやって身柄を確保…助けるか、だ。マルキオとて、そうやすやすとシャロンを奪われることを良しとしないはずだ。

 

「……兄貴、俺が行く」

「お前がか? だが……」

「心配無用。”眼”を使えば何とかなると思う」

「そうか…だが、距離がかなりあるぞ。その分、体力も使う。それでも良いんだな?」

「ああ。それだけの価値はあるだろ?」

 

 ヘラヘラした笑顔で器用にウィンクをするが、その眼は限りなく真面目に…マクシミリアンへの見栄や意地ではない、確固とした強い意志の光が見えた。

 

「……なら、もう何も言わねぇ。だがな、やると言った以上、きっちりやれよ」

「ああ! 任せてくれ、兄貴」

「つ〜訳だ。悪いが皆、トムをサポートしてやってくれ」

「わかりました。何をやるか知りませんが…全力をもって補佐します」

「右に同じく…」

「この際だ、サポートは惜しまん。だが…しくじるなよ、小僧」

「へっ、言ってろおっさん。すぐにあの嬢ちゃんをここまで運んできてやるよ」

 

「話はまとまったね…じゃ、いくよっ」

 

 

 話がついたのを確認するや否や、両手にデザートイーグルを構えたエルザが先陣をきって駆け出し、皆もすぐ後に続き、各々の武器を再度構えながら走る。

 

「さぁ見せたまえ、ここまで辿り着いた君達の力を! そして、その矮小な身体に満ちる命を限界以上に輝かせ―――――華々しく散りたまえ!」

「散るのは―――――お前だ!!」

「行け―――――ウルズ、スクルド、ヴェルザンディー!」

 

 エルザの持つ左右の銃より放たれた二発の弾丸が、マルキオの眉間と心臓に向かって放たれる。同時に、マクシミリアンの操る三体の精霊獣が、左右、上空から強襲する。

 

「昨日と同じ芸か」

 

 マルキオが右手を掲げると同時に双眸が真紅に染まり、直後に弾丸と精霊獣が静止する。昨夜と同様…いや、それ以上のP・Kサイコキネシスで動きを押し止めたのだ。

 

「確か、日本では『何とかの一つ覚え』と、言うのだったな」

「その台詞、そっくり返すよ!」

 

エルザの怒声と共に再び放たれる弾丸。その弾丸は狙い違わず―――――停止した弾丸に直撃した!?

 

「なにっ?!」

 

 後続の弾丸に弾かれた先の弾丸が、先の狙い通りマルキオの心臓に向かう。マルキオは咄嗟に身体を横に捻って避けようとするが、完全には避けきれず、右の二の腕に当たった。

 その直後、小さな破裂音と共に『福音弾ゴスペル』が当たった周辺が弾け、大量の血を撒き散らしながらよろめいた。

 

「今だ!」

「了解!!」

 

 グリニデの号令に、トムが体位を低くし、床の上すれすれを全速力で駆ける。その速さは今までとは比べものにならず、常人の限界をはるかに越えている。

 だが―――――それでもシャロンとの距離は遙かに遠い。

 さらには、マルキオが立ち直るのが予想以上に早い。瞳に剣呑な光を宿らせ、長く伸びた牙をむきながらトムに向かって残った左手を突き出した。

 

 

「小賢しい真似をッ!」

 

「やべっ」

「止まるんじゃねぇ、そのまま突っ切れ!」

 

 P・Kサイコキネシスでも来るのかとトムの走る勢いが衰えるが、背後から轟く声が恐怖を払拭した。兄貴分の言葉を信じ、トムは再び加速し、一直線にシャロン嬢の元へと駆ける。

 

 

「させん、潰れるがいい!」

「それこそさせるかよ!」

 

 マルキオから伸びる不可視の触手サイコキネシスがトムの身体に届く寸前、その背後から現れた円盤がその触手を散らし、そのままマルキオに向かって飛翔する。

 

「なんだこれはっ!」

 

 その円盤を驚異と判断したのか、再度P・Kサイコキネシスで円盤を押し止めようとするが、先と同様、またしてもP・Kサイコキネシスを容易く切り裂き、勢いを削ぐことさえできない。

 そしてそのまま円盤は―――――マルキオの胴体を切断した。

 転がり、断面部から流す血で床を染める下半身。だが、あろう事か上半身はそのまま宙に浮いている!

 

「娘を取り返すつもりだろうが…そうはさせん、串刺しにしてくれる!」

 

 本当にダメージを負っているのか疑問に思う声音でマルキオがそう言うと、床に広がった血が盛り上がり、数多の触手…いや、槍となってトムに襲いかかる。

 シャロンのいる場所はマルキオのすぐ隣。つまり、シャロンの近づくと云うことはそれだけマルキオとの間合いをつめると云うこと。目的シャロンまで後僅かに迫っていたトムには、近距離から放たれた数多の槍を避けることはできない。

 

【神よ 耳を傾けてください―――――】

 

 ピートはフォローを入れようとすかさず詠唱を始めるが、いかんせん術の起動に時間がかかりすぎて間に合わない。グリニデも、先程パニッシャーを投げたため武器はない。そしてエルザの銃でも無数の槍を一瞬ですべて砕く事は不可能――――絶体絶命の状況だ。

 その状況にありながら、トムは迫る『槍』死の具現を真っ正面から睨み付ける。

 

「俺を舐めんじゃねぇぞ、この蚊トンボ野郎!!」

【”時の支配者クロノ・グラスパー”起動―――――レベル・1】

 

 トムの右目が妖しい光を宿した直後、急激に動きが加速する。そして大量の槍を紙一重で避け、その隙間を縫うように駆け抜けた。その間、僅か一秒足らず。恐ろしいスピードだ。

 

(よしっ!)

 

 シャロン嬢を抱き抱えるトム。シャロンは虚ろな瞳で虚空を見つめたままピクリとも身動きしない。催眠術でもかけられているかわからないが、この場合は逆に好都合だ。

 ここまでは良かった―――――だが、そのままおめおめとシャロンを奪われる様を見ているマルキオではない。

 

「させぬっ!」

 

 先の無数の槍に加え、血溜まりから更に新たに血液の矢が造り出され、トムとシャロンに向かって放たれる。

 逃げ場がないほどの攻撃。シャロンをも巻き込むことを前提にした容赦ない攻撃だ。自分一人なら、武器を使い矢を切り払って逃げればいいが、シャロンを抱えたままではそれもままならない。

 

(クソッ、この嬢ちゃんを抱えたままじゃ避けきれねぇ!!)

 

 今度こそ絶体絶命―――――かと思われた瞬間、マルキオのP・Kサイコキネシスの束縛から解き放たれていた精霊獣三体が、それぞれの武器で槍や矢を切り払って一角を切り崩す。その隙間はさして大きいものではないが、この場から脱出するには十二分な大きさをもっている。

 

(ありがてぇ! 感謝するぜおっさん)

 

 加速している・・・・・・現状で何を言っても意味がないので、心の中で感謝しつつ、シャロンを抱えたままその場から離脱した。いや、しようとした。

 唯一の逃げ道の先―――――そこに、いつの間に回り込んだのかマルキオが居り、しかもご丁寧に、長く伸びた爪でトム達を引き裂こうと振り下ろしている。その動きは速く、荷物を抱えている今のトムには避けきることができない。

 

(やべぇ! 避けきれねぇ―――――レベル・1じゃなく2にしとけば良かった)

 

 迫る長く鋭い爪を睨みながら後悔するトム。それでもなんとか致命傷だけは避けようと身を捩るが、どう避けようとも爪はトムの身体を抱えているシャロンごと薄紙同然に引き裂いてしまうだろう。

 だが―――――横手から現れた人影がマルキオを弾き飛ばし、壁に叩き付けた!

 

(坊主?!)

 

 その影―――――掌を突き出している景太郎に、トムは二重の意味で驚く。

 だが景太郎は驚いているトムに気づく様子もなく、壁にめり込んだマルキオの眼前に一瞬で移動すると、右手に持つ剣……黄金の騎士より託された聖剣【デモン・スレイヤー】をマルキオの眉間に突き立てた。

 そして―――――

 

 

「―――――咬龍―――――」

 

 景太郎の拳がマルキオの心臓を中心とした胸部一帯を大きく抉った。更に―――――

 

「退いてください、景太郎君―――――【神よ 悪しき者に浄罪の光を!!】

 

 更に、一拍遅れて放たれたピートの浄化の光が、止めとばかりに上半身を完全に消滅させた。それとほぼ同時に、血液で形成されていた槍や矢も元の液体へと戻っている。

 身体を上下に断ち、脳を聖剣で貫き、心臓を神氣の攻撃で潰し…果ては浄化の光で完全消滅。いくら吸血鬼ヴァンパイアが不死に近く、しぶとい存在だとしてもここまですれば消滅は確実だろう。

 

 一番厄介な吸血鬼ヴァンパイア退治は完了した。後は城よりの脱出、そしてジョーンズ氏へ娘のシャロンを引き渡せば全てが終わる。

 

 そこまで考えたその時、景太郎は上空から飛来する気配を感じ、見上げるよりも先に前方に跳ぶ。その直後、飛来した人影が振り下ろした薄い何かが、景太郎の居た空間を通り過ぎ、床に鋭い切れ目を付けた。

 景太郎はそれを確認する事無く、壁に突き刺さったままの聖剣を引き抜くと振り向き様に剣を薙ぎ払う―――――が、金属が打ち合うような音と共に、硬質化したマントに受け止められた。

 

「生きていたのか」

「あの程度で私が滅びたとでも思ったか。浅はかだな、人間モータルよ」

 

 景太郎の驚きを秘めた声に、人影が…マルキオが嘲笑と共に言葉を返した。

 

「野郎、生きてやがったのか!?」

「馬鹿な! いかに吸血鬼ヴァンパイアといえど、あれだけされて即座に復活するなどありえるはずがない!!」

 

 グリニデの言葉を思わず否定するマクシミリアンだが、いくら否定しようとも眼前の事実が違えることはない。現実として、マルキオは五体満足の上、些かもダメージを負った様子も見せず景太郎と鍔迫り合いをしている。

 

「フッ……家畜が飼い主に抗えぬよう、〈人間モータル〉如きが〈夜魔の貴族ミディアン〉たる私を倒せるものか。身の程を弁えよ」

「人の生き血を吸って生きてる蚊の親玉が偉そうに!」

 

 黙れと言わんばかりに銃を連射するが、蝙蝠の羽のように翻ったマントによって全て弾かれた。どう云う理屈かはわからないが、景太郎の持つ聖剣と互角以上に渡り合っているのだ、〈福音弾ゴスペル〉ならともかく〈聖火弾セイクリッド〉ではとても歯が立つはずもない。

 

「クソッ!」

 

 空となった弾倉を外し、今度は〈福音弾ゴスペル〉の入った弾倉を入れるエルザ。景太郎も時を同じく、一旦間合いを空けるべく後方に下がった。

 そして入れ替わるように、パニッシャーを大剣状態に戻したグリニデが、景太郎とは反対側からマルキオに斬りかかる―――――が、その剛腕から繰り出された一撃も、マルキオのマントによって受け止められた。

 

 

「フン…P・Kサイコキネシス無効化キャンセルする武器か。噂程度には聞いていたが、まさかお目にかかれるとはな」

吸血鬼ヴァンパイア専用の武器だ、とくと拝んで逝きやがれっ」

「確かにその武器にはP・Kサイコキネシスが効かぬようだが…貴様自身はどうかな?」

「―――――ゴフッ!!」

 

 隙だらけの腹部に念の衝撃波を受けたグリニデが、まるで蹴飛ばされたボールか何かのように吹き飛んで壁に衝突し、めり込む。凄まじいP・Kサイコキネシスの威力だ。

 

「よくも兄貴をッ」

 

 シャロン嬢を後方の安全な位置まで置いてきたトムが、グリニデの惨状に怒り、二本の聖剣を構えて斬りかかるが、その攻撃もマルキオの操るマントに容易く防がれてしまう。更には―――――

 

「その男と同じ末路がお望みのようだな」

 

 羽を広げるが如く振るわれたマントに弾かれ、グリニデのすぐ横の壁に叩き付けられ、床に崩れ落ちた。

 

「さて…邪魔者は排除した。続きを楽しもうじゃないか、カンナギ少年」

「その油断が命取りだ」

 

 一体いつ潜り込んだのか、マルキオの懐まで間合いをつめた景太郎が、その言葉と共に赤い光を纏う拳を心臓部めがけて繰り出した。

 

「五霊戦術―――――爆砕!

 

 凄まじい赤い閃光が発生すると同時に後方に吹き飛ぶマルキオ。だが、十メートルほど飛んだ所で床に着地した。腹部の服が散り散りになっているが、本体がダメージを負っている様子はない。

 

「チッ―――――(爆砕であの程度…マントだけじゃなく、下の服まで硬質化できるのか)」

「どうした、カンナギ少年。私の胸を抉った一撃ほどの威力はないぞ。出し惜しみはしないでくれたまえ」

「いや、それで充分だ」

「なんだ ―――――とっ!?」

 

 音もなく胸から生える光の塊。マルキオは苦痛の表情で後ろを見ると、そこには光の剣を背中に突き刺しているピートの姿があった。

 

「貴様…いつの間に背後に……」

「いいえ。私は動いていませんよ。貴方が来てくれたのです」

「そ、そう云うことか……」

 

 景太郎の真の狙いに今更ながら気がつくマルキオ。そう、景太郎は今の一撃で倒す気など無く、吹き飛ばしてピートの間合いまで移動させることが目的だったのだ。真正面からピートが迫れば、グリニデ達と同様マントで防がれるだろうが、無警戒の背後からの一撃はいとも容易くマルキオを貫いた。

 

「カハッ!」

 

 どす黒い血を大量に吐きつつ、胸から生える光の刃を掴むマルキオ。力を篭めて砕くつもりなのだろうが、その様なことをさせるほど、ピートは優しくも甘くもない。

 

【煙が追い払われるように 神の御前から滅び失せよ―――――アーメン!】

「―――――ッ!!」

 

 

 光の刃を介して体内に注ぎ込まれる霊気にマルキオが絶叫を上げるが、その口から迸るのは漏れ出る浄化の光のみ。目や鼻の穴からも漏れ出ており、数秒に渡る声なき絶叫を上げた後、マルキオは衣服もろとも灰となって床に落ちた。

 

「ふぅ…この手応え、幻などではありません。確実に息の根を止めました」

「だと、良いですけど……」

 

 景太郎はそう言いつつ、デモン・スレイヤーの切っ先で床に積もった灰を掻き混ぜる。先程のこともあるため、念には念を入れているのだ。

 先程も、残心…剣の心得で、戦いが終わっても心(思考)は戦いに残しておき、終わったからといって決して油断せぬ事の意…を心がけていなければ危なかったのだ。用心深くなるのも仕方があるまい。そんな時……

 

「ぐ…ゴホッ……畜生、いいとこ全部坊主と神父に持ってかれたな」

「まったく、ざまぁねぇ……俺はやられ役かよ」

 

 壁に叩き付けられたグリニデとトムが、悪態をつきながらなんとか立ち上がっていた。グリニデの方は鍛えられた筋肉の鎧に守られ、さしてダメージはなさそうだが、小柄なトムはそうもいかず、複数の裂傷の他に頭からも血を流し、立ち上がっても膝をガクガクさせてなんとか立っている様子だった。

 

「喋ってはいけません、今すぐ治療をしますので……」

「す、すまねぇな…さすがにつっぱる余裕はねぇや」

 

 素直に床に座り込み、ピートの治癒術を受けるトム。本当に辛いのだろう。いつもの皮肉口調もでないほどに…

 

「しっかりと治療してもらいな。お前はお嬢さんを助け出したんだ。一番手柄はお前だよ」

 

 離れた場所で、景太郎の張った結界内に寝かされているシャロンを見ながらトムを労うグリニデ。景太郎達もその事には異論はない。トムが危険を承知でシャロンを助けたからこそ、皆は周囲に遠慮無く戦うことができたのだ。

 

「グリニデさんの言うとおりです。それはそうと…グリニデさん、貴方も治療が必要の様ですね」

「大したことはねぇよ。擦り傷がちょこっとあるぐらいだ」

P・Kサイコキネシスをまともに受けたんです。見た目に怪我はなくとも、中にダメージが蓄積されているはずです。景太郎くん、君のことだから治癒術も修得してるだろう? グリニデさんの治療を頼むよ」

「わかりました」

 

 景太郎はピートの申し出を了承すると、聖剣デモン・スレイヤーを背中の鞘に収め、グリニデに歩み……よろうと一歩踏みだしたその時、景太郎が上を向いたと思ったら突如姿が消え去り、代わりに床が突如へこみ、小さなクレーターができた。

 

「ふむ…あっさりと気づかれてしまったな。やはり君には不意打ちは通用しないか」

 

 頭上から聞こえた声に、その場の一同が先程の景太郎と同じく上を向くと、そこには十メートルほどの高さで空中に立っている、無傷のマルキオの姿があった。その視線は皆を等しく…いや、景太郎以外を睥睨しており、皆の驚愕の表情をさも楽しそうに眺めていた。

 

「そんな馬鹿な…貴方は先程確実に滅ぼしました、手応えもしっかりとあった。貴方が滅んだ証拠である灰も、そこにあるのに!」

「先程も言ったであろう。人間モータル如きが夜魔の貴族ミディアンを倒せるかと」

「戯言を! どんな存在でも終わりは来るのが天の定めし運命さだめ。それが“夜魔の貴族ミディアン”であろうと、人であろうと、例外などありえない!」

「ならば、私はその運命さだめとやらを超えた存在だ。なぜならば、私は決して死なぬ存在…不死身なのだから」

「この化け物がッ!」

 

 エルザが怒声と共にマルキオに向かって発砲するが、直撃する寸前でマルキオは姿を霧へと変え、空気中に消え去る。正確には見えなくなるほど薄くなったのだろうが、エルザ達から見れば消えたも同然だ。

 

「エルザさん、伏せて」

 

 いつの間に移動したのか、景太郎がエルザの胸元を掴んで床に引きずり倒した直後、硬質化したマントの刃がエルザの首があった空間を通り過ぎる。

 

「―――――凶断」

 

 伏せた状態から神氣を纏う剣を斬り上げるが、マルキオは後退して剣を避ける。凶断なら霧となってもダメージを与えられるのだが、直感か何かで気がついたのだろう。予想以上に鋭いマルキオに、景太郎は短く舌打ちする。

 

「この野郎ッ!」

 

 下がったマルキオにすかさず斬りかかるグリニデ。だが、マルキオは身体の一部…剣の当たる部分のみを霧化し、素通りさせる。やはり、物理攻撃に聖属性を負荷する攻撃では霧化した吸血鬼ヴァンパイアにはダメージを与えることができないようだ。

 

「フフフ……聞こえるぞ、貴様の身体が軋む音が。あまり無理をせぬ事だ、この程度で戦線離脱など興ざめだからな」

「うるせぇ! 身体がいかれても貴様はぶっ殺す」

「兄貴、俺が行く!」

 

 治療が終わったのか、両手に小剣ショート・ソードを構えたトムがグリニデとマルキオの所に向かって疾走する。

 

「行くぜ―――――【“時の支配者クロノ・グラスパー”起動―――――レベル・2】」

 

 トムの右目が前の時よりも強く発光した直後、トムの姿が消え去り、マルキオの身体に無数の銀色の閃光が走り、バラバラに分割される。

 

「どうだ!」

「ふむ…なるほど、自分の時間を加速させる魔眼か。なかなか面白いものを持っているな」

「なっ!!」

 

 バラバラになった状態のまま、ごく普通に喋っているマルキオ。よく見れば断面の所が薄い霧状になっている。あれだけの速さ…一瞬で二十回以上斬ったのにも関わらず、またもや肉体の一部を霧化して回避したのだ。

 

「ありえねぇ! レベル2の俺の攻撃を避けるなんて……」

「ありえない? そこの神の下僕も言っていたな。それは貴様等の矮小な尺度で測るからだ。とある人間の魔術師も言っていたな、『ありえないなどありえない』と」

「くそったれが!」

 

 トムは再び魔眼の力で加速し、先程以上にマルキオに斬りかかるが、今度は完全に霧化して攻撃を透過させる。その時―――――

 

「それを待ってたぜ」

 

 グリニデが、十字架状に変形させたパニッシャーを持っていた腕ごと霧の中に突っ込んだ。

 

「くたばれ化け物ッ!」

 

 刀身の表面に何かの文字が浮かび上がると同時に高速回転を始めるパニッシャー。それによって生じた燐光を含む風が霧を散り散りに吹き散らした。

 完全に霧が消え去ったのを確認してパニッシャーの回転を止めるグリニデ。周囲を警戒するが、マルキオが現れる様子はない。

 

「バニッシュ・ウィンドゥ……霧になったのは致命的だったな。言っただろうが、この武器は吸血鬼ヴァンパイア用の武器だってな」

 

 それだけ言うと、床に膝を付き荒く息を…いや、息も絶え絶えにふさぎ込むグリニデ。そんなグリニデの側により、エルザがそっと支える。

 

「あんた無茶しすぎだよ。その状態でその剣パニッシャーの能力を使うなんてさ」

「うるせぇ…あんな…蚊トンボに舐められたままで……我慢ができるかよ」

「だからってねぇ、無茶してると死ぬわよ」

「命を賭けずに倒せる相手じゃねぇだろうが」

 

パチパチパチパチ………

 

「見事な覚悟だ。だが、貴様程度の命と私の命を対価にするには些か安すぎるな」

 

 突如聞こえた拍手と声に全員が正面を向くと、そこには玉座に座ったマルキオが居た。言うまでもないが…傷一つ、疲弊した様子すらない。

 

「馬鹿な…アレで消えない吸血鬼ヴァンパイアは居ないはずだ。確実に消滅したはずだ!」

「確かに、消滅した。だが、私は言っただろう? 私は不死身だと」

 

 玉座から立ち上がるマルキオ。その背後には、大きな窓から真円を描く月があった。その光景は映画にでもよく見られるような陳腐な場面シーンだが、グリニデ達には死と絶望の代行者のように見えた。

 

 

「不死とはすなわち死なぬ事。死なないと云うことは…誰にも私を殺せないということだ」

 

 

 詩を読み上げるかのような朗々としたマルキオの声が、全員の耳に痛いほど響き渡った。

 

 

 

 

 

 

―――――六幕に続く―――――

 

 

 

 

【あとがき】

 

 どうも、ケインです。梅雨も明け(私の所はそうです)日々更に暑さが増す今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 などと、偶に言ってみたかったり……

 

 それはともかく、最強の手駒…あっさりと倒されてしまいました。本当は強いんですけどね……特に後半など。町一つぐらいはあっさりと壊滅させたり、戦車隊など敵でもないほどの強さなんですけど、相手が悪かったようです。

アイデアの元はありますが…決してガンダムではありませんので。あれも強いと思いましたが、やはり相手が悪いですね。やはり高機動性でしょうか。

 

 そしてマルキオ戦…前哨戦です。マルキオが強いです。というか、不死身…何をやっても死にません。文中ではあまり詳しくかかれてませんが、景太郎も驚いています。

 その理由は…次回にてはっきりします。それまでお待ちください。

 

 

 それでは次回…二の外灯・六幕『ヴァンパイア・キャッスル』をお待ちください。

 では………日曜まで仕事でややハイになっているケインでした。文中に違和感があれば申し訳ありませんでした。

 

 

 

back | index | next